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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-162

 その格好からして既に変態的なのに、まるでヒーローショウのような口上をのたまうものだから、そんな管弦楽に京子はツボを打ち抜かれてしまったのだ。
「白球丸って……」
“アホかこいつ”という空気がフラッペーズの間を漂っている。
 それはバッカスも同様で、助太刀を申し入れられているのに皆は唖然として言葉も出ないようであった。
「リーダー殿」
 そんな空気も読めないのか、白球丸に扮した管弦楽が唐草マントをばさりとひらめかせて、風祭の方に向き直る。
「見たところ貴殿のチームは人が足りないようだ。僕が助っ人として参陣してもかまわないだろうか?」
「あ、ああ……」
 いまだ夢の世界を漂っている風祭は、“助っ人”と聞いて急に我に帰った。
「ほ、ほんとか!?」
 喜色が浮かびかけて、不意に眉がよじった。なにか不審を抱いたらしい。
「い、いくらだ?」
 どう考えても真っ当な奴ではない。風祭は状況が状況だと言うのに、それでも打算的な見方しか出来ないでいる。
「そんなものは無用だ! 僕は義を以って貴殿に助力を申し入れよう!!」
「た、ただでいいのか!?」
 風祭は幸運を喜んだ。この酔狂な変人のおかげで、取りあえずは不戦敗を免れると考えたからだ。フラッペーズはあまり強いチームではないから、投手がいないと言う不安はあるものの、試合さえ出来れば負けることはないだろうと思っている。
「よし! 白球丸、君の申し出を受けるぞ!」
「かたじけない!」
 二人は熱い握手を交わした。
「きゃははははは!! あー苦しい!! し、死にそう……あっはははははは!!!」
 相変わらず京子は腹を抱えて笑い悶えているし、フラッペーズとバッカスの面々は、見てはいけないものをそれでも見ざるをえないといった様子で呆然と二人を見守っている。
 松村にいたっては、差し出したままの手のひらの行き場を無くして、その格好のまま固まっていた。



「あの白球丸とか言う変態野郎はともかく……」
 守備位置に散ったバッカスの面々を目で追うように、ベンチ前で顔を寄せあうフラッペーズ。
「バッカスはその気にさせると強いチームだから、覇気のないうちに叩けよ。絶対に野次も飛ばすな。相手を怒らせて本気にさせると……」
 こっちの勝ちは難しい、と松村はつなげた。
(ふぅん……)
 その言葉を聞いて、京子は自分が欺かれたわけではないことを知り、溜飲を下げる。
(本気になればそれなりに強いってことね……)
 とりあえず仕事の条件は満たしている。
 そして相手方の一塁手を見たとき、何というか力が抜けそうになった。
(あのバカ。白球丸って、ヘンなテレビの見すぎなんじゃないの)
 白覆面の中身は間違いなく管弦楽である。さすがに試合のときはマントを外しているが、あの白覆面だけでも既にヘンな人だ。
 白いフェイスカバーそのものだけを身につけていたのなら、まだ普通に見られただろうに、そのカバーにラメを塗(まぶ)してきらびやかに粉飾し、額には何故か三日月模様の縫い付けをしてあるので、どう考えても本気でその“白球丸”とやらに扮しているとしか思えない。
 約定をたがえず、勝負の場に来た心意気には感じるものがあるが、まさかあんな具合に変装をしてくるとは思わなかった。
(あ、でも……)
 考えてみれば、大学の軟式野球部に正式に所属して、公式記録に残るリーグ戦を戦っている選手が、賭け試合に出てくるというのは都合の悪いところもあるはず。傍若無人ではあるが、そのあたりも考えての行動だとしたら、その格好だけで、一概に彼のことを馬鹿にはできそうもない。


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