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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-161

「どうしたんです、景気の悪い顔しちゃって……ははあ、もうやる前から試合投げました?」
 言葉の軽妙さとは裏腹に、悪意が感じ取れる。とある寄り合いで、この男と風祭が軽い口論になり、その結果がこの賭け試合になってしまったのだから仕方ないのだろうが…。
「って、旦那のチーム……ひーふーみー……8人しかおらんじゃないですか?」
 やけに頭数が少ないと思い、数えてみたが、なんと相手はチームとしての体裁さえ整っていない。
「こいつは、試合やるどころの話じゃないねえ……困りますよ、風祭さん」
 頬がにやけたように歪む。明らかに軽蔑の色を込めたその表情に、さすがにバッカスの面々は多少気色ばんだ。
「どうします? まあ、試合できないんじゃ旦那の不戦敗ってことになりますがねえ」
 けけけ、と品の無い笑い方をする。どうやら本性が出てきたらしい。
 風祭は唇を噛み、しかし何もいえない。ただ、こんな小男に見下されている自分が惨めで、どうにもやりきれない感情に目の奥が滲んだ。
(……話が違うわ)
 一方、フラッペーズと少し間を置くようにして、ひとりだけユニフォームの違う選手が腕を組み、親指の爪を噛んでいた。フラッペーズの助っ人ということで雇われた醍醐京子である。
(こいつは……面白くないわね)
 彼女の不審は二点あった。
 まずは、相手チーム。松村の話では、それなりに名の知れた強豪だと聞いていたのに、目の前にあるのは人数も揃わない覇気も感じられない弱そうなチームではないか。弱小チームに投げるのは、京子のポリシーに反するところである。
 だがそんなことより、彼女にとって一番面白くない出来事は、いるべき人間がそこにいないことだった。
(あの男……)
 あれだけ吹いていながら結局はこれか、と京子は失望した。
「じゃあ、しょうがないから、ね、風祭さん。あんたらの負けってことで、もらうもんもらいましょうか?」
 ひらひらと手のひらを震わせて催促をする松村。
 悔しそうに歯を軋ませるが、どうにもならない。屈辱に顔を歪ませながら、風祭は札束の入った茶封筒をその手に渡そうとした。
「わはははははははは!!!」
 その瞬間だ。何処からともなく高笑いが聞こえたのは。
(あいつだ!)
 フラッペーズも、バッカスの面々も不審そうに辺りを見廻す中で、京子だけは確信をもってその姿を探した。
「トウッ!」
「「うわっ!」」
 フラッペーズとバッカスの間に突如として振って沸いた人影。バットケースを肩にかけ、何処かの高校野球部員が来ている様な飾り気のないユニフォームを身に纏った男が、そこにいた。
「きた!!」
 京子は思わず叫んでいた。その声音に何となく喜色が入っていたのは、彼女のために内緒にしておこう。
「って、なにそれ?」
 しかし呼んだ後で気づいたが、彼はなにやら白い布切れのようなマスクで目元を隠していた。よく見れば、そのマスクは鼻骨を骨折したときに使うフェイスガードになにやら細工を加えたものらしい(※現実世界における、2002年に開催されたサッカーW杯で、日本代表のDF・宮本選手が使っていたものを想像していただきたい)。
 それだけでなく、何故か背中には唐草文様の風呂敷が。………マントのつもりらしい。
「話は全て聞いた! “義を見てせざるは勇なきなり”と、古人の言葉にもある!」
 バットケースの中から標準サイズの黒金属バットを取り出すと、それをびしっ、と松村の眼前に掲げた。
「我が名は正義の野球人・白球丸! チーム・バッカスの助太刀をここに申し入れる!!」
「ぶっ」

 きゃははははははは……

 フラッペーズの脇で、京子がたまらず腹を抱えて笑っていた。


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