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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-160

「お、おいちょっと待てよ! 新藤、あっ」

 プツッ、ツーツーツー……

 手にしている携帯電話からは、無情な音が響くのみだ。風祭は呆然としながらベンチで頭を抱えた。
 そんな彼に軽く侮蔑の眼差しを注ぎながら、集まっていたバッカスの面々はおざなりにウォームアップを始めている。…よく数えてみるとその人数は風祭を含めて8人しかいない。
 実は、バッカスは野球チームとして既に人数割れを起こしていた。それで風祭は、なんとかバッカスを抜けて久しい元・エースの新藤に頼み込んで、今日の試合だけでいいからと説得を続けていたのだが、振られてしまったらしい。
「新藤さん、来ないんスか?」
 誰も、不機嫌を顔に貼り付けた風祭に近寄らない中で、務だけがその前に立っていた。
 風祭は忌々しげに舌打ちをすると、投げやりに“そうだよ”と答え、近くのブロックを蹴り倒す。
(物に当たる人じゃなかったのに……)
 務は、風祭の変貌ぶりが悲しい。
(しかし…)
 困ったことになった。投手がいないのでは、試合にならない。そもそも人数が足りないから試合が出来そうもない。
「なあ、木の字……リー坊は来ないのか?」
 風祭の言う“リー坊”とは亮のことである。
「ええ、来ませんよ。来ても、試合に出させるつもり、ないッスから」
「ちっ」
 ふくれっつらの風祭は、賭け野球に興味を失っている目の前の友人を蔑んだように見ていた。その視線のよどみが、務にはまたつらいものとして映ってしまう。
「風祭さん、相手に頼んで、この試合ナシにしませんか?」
「バカ言うんじゃねえ!」
 凄い剣幕で怒鳴られた。話を出したのは風祭で、しかも喧嘩腰の勢いで賭け試合ということになったのだから、そんなことをすれば相手チームの不満は全て暴力的なものに変化して風祭に襲いかかるだろう。かといって、このまま不戦敗になれば、猛烈な侮辱となって風祭を責めるに違いない。金を失い、チームを失い、プライドまで失うことは風祭としてはなんとしても避けたいことだった。
「でも、人数足りねーんじゃ、試合できねーよ」
 務のすぐ後ろにいた金髪の青年が面白くなさそうにぼやく。他の面々も、一様に頷いていた。本当なら、こんな試合は出たくもない。風祭の軽挙には、もうつきあいきれないという淀んだ空気がそこにはある。
 そんな彼らをなんとかなだめ、試合に引っ張り出したのは務である。彼らは務の面倒見の良さをよく知っているし、それなりに世話にもなっているから、風祭のためと言うよりは務のために今日は動いたようなものだ。
「あ」
 その金髪の青年が頓狂な声を挙げた。その視線の先が何かを見ている。
「げ……」
 相手チームの面々が、ずらりと並んで河川敷に降りてきた。札幌フラッパーズのユニフォームを模した朱色が印象的なチームだ。胸には、“フラッペーズ”と読める英字が書かれている。“フラッパーズ”をもじったものであろう。
「よっ、風祭の旦那」
 その先頭に立っていた小柄で出っ歯で垂れ目の男が、馴れ馴れしげに寄ってきた。フラッペーズの頭を張る・松村という男だ。いつもは行商で夏場はフラッペとワラビ餅を、冬場は石焼芋を売って生計を立てている商売人である。札幌フラッパーズを盲愛する無類の野球好きだが、恐ろしくド素人で、チームを自ら結成しながら試合には一度も出たことがないという、不思議な男である。


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