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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-118

「………」
 渚の放った二球目が真ん中に。新村はもう一度バットを寝かせ、バントを試みる。真ん中のストレートならば、いくら自分でも転がすことは出来るだろう。
 そう思っていた。
(あ、あれ?)
 まっすぐこちらに向かってくるはずの白球が、途中で消えた。急に失速し、吸い込まれるように落ちたのだ。
(え? え? え?)
 その変化に惑った新村のバットは、そのままボールを見送ってしまった。
「ストライク!!」
 当然、空振りと認められ、審判の手が挙がる。
 2ストライクとなったから、もうバントは出来そうにない。玲子からヒッティングに切り替えというサインを送ってきた。
(あちゃ………)
 新村は構えを取る。こうなったら、何とか前に転がして、走者を二塁に進めなければ。
 渚の投げた三球目。またも、ボールは真ん中に。
(しめた!)
 新村が振りにかかった。打撃に自信はないが、真ん中のボールならなんとかなる。
「!」
 捕らえたと思った白球が、またしても途中から勢いを失い、滑り落ちるように沈んでゆく。新村のバットをあざ笑うかのように、逃げてゆく。

 ぶん…

「ストライク!!! バッターアウト!」
 空振り三振。結局、なにもできずじまい。新村は、肩を落としてベンチに戻った。
「新村さん」
 その新村に、亮が話しかける。
「あ、ああ……ごめん」
「いえ、いいんです。それより、いま、どんな球筋でしたか?」
 亮は気になったのだ。横から見て、明らかに様子が違ったから。
「なんかよ……最初はストレートかと思ったら、急に落ちてった」
「………」
「ストライク!」
 亮は打席の方を見る。8番の長谷川が、空振りをしているところだった。
「バッターアウト!!」
 そのまま長谷川は、三振に倒れた。やはり俯きがちにベンチに戻るところを捕まえて、亮は問いかける。
 答えは、新村に訊いた時と同じものだった。
(途中で失速して沈む球……)
 亮は、玲子にタイムをお願いした。すぐに意図を察し、玲子が審判に告げる。思いがけないベンチワークの発動に、困惑げな顔つきで晶が寄ってきた。
「どうしたの?」
「晶、相手はシンカーを使ってきた」
「! あれ、やっぱりシンカーなの?」
 晶も、ウェイティングサークルから見ていて、“日の出ボール”とは全く違うその球筋が気になっていたのだ。
 ちなみにシンカーとは、例えば右打者に投げたとき、その膝元に沈んでくるような変化球をさす。主に、横手投げや下手投げの投手が多用するボールで、その変化が大きければ大きいほど、“消えるような”錯覚を起こす。
「多分、シンカーだと思うが……」
 亮は、確信がもてない。なにしろ基本的にシンカーはスピードの緩い変化球だ。そのはずなのに、マウンドの渚が投げたものは、横から見ればほとんどストレートと変わらない。
「気をつけろ」
「ん、わかった」
 審判が、打席に入るよう促してきたので、顔を寄せ合っていた二人は離れ、それぞれ散った。
 晶が左打席に入る。この場合、もしも亮の言うとおりシンカーがくれば外角に逃げる変化球となる。
 渚がセットポジションから、初球を繰り出してきた。アウトコースへのストレート。
「ストライク!」
 取りあえず、見送った。
 二球目、“日の出ボール”。高めに来たそれを、やはり見送る。


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