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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-117

「あたた……」
「ああ、動くなよバカ」
 ベンチに戻るなり、渚はすぐに救急箱を引っつかむと、悟を呼んだ。その頭をぐわしと掴むと上に向け、ワンバウンドの投球を二度も受けた顎を見る。いくら軟式のボールとはいえ、同じところをぶつけたためか、少しだけ赤く腫れていた。
「これでいいかな」
 いつも打ち身に使う軟膏を取り出し、患部に塗りこむ。
「………」
 美作が、目を点にしていた。
 なにしろあの渚が、悟に対してかいがいしく傷の手当てをしているのだ。腹を出して寝るような渚が…男連中よりも大飯喰らいの渚が! 人前で臆面もなく屁をし、洗濯をサボってばかりいた渚が!!
「おおお………」
 だからといって、泣くのは大袈裟だろう美作君。
「ありがとう、渚」
「へっ、今回だけサービスだ。もうしてやんねえよ」
「え〜……残念だなぁ」
「な、なんだよ。こんなの、誰がしたっておんなじだろう?」
「渚にしてもらうから、嬉しいんじゃないか」

 ぼっ…

 少し、渚の頬が染まる。もともとが小麦色だから、変化はわかりづらいだろうが。
「て、点、取られちまったなぁ」
 慌てて話をすり替えようと、スコアボードを見る渚。綺麗に並んだ0を押しのけるように、6回の表に別の数字が入っていた。
「渚。あの5番に投げた球、完璧だったよ」
「え?」
 振った話題に反応することもなく、淡々と喋った悟の言葉に、渚は反応する。
「ま、マジか!?」
「うんマジ」

 ぽこ…

「アウト! スリーアウト!! チェンジ!!!」
「あれま、なんと早い」
 悟の呟き。6回の裏、下位の7番から始まった星海大の攻撃は、あっさりと三人で打ち取られた。相変わらず、ヒットはおろか、ランナーさえ出せていない。
「なあ、悟」
「ん?」
 ふいに呼ばれた悟は、となりの渚と向かい合う。
「取り返してくれるんだよな?」
「もちろんさ」
 そんな状況にも関わらず、自信を失わないパートナーを、渚は頼もしく思っていた。



「相手のコントロールが乱れているいまのうちに、たたみかけよう」
 直樹が訓示を行う。
 この回は、下位打線だ。とはいえ9番の晶は、亮やエレナに匹敵するほどの打撃力を持っている。マウンド上の渚が制球力を喪失しているのならば、四球を足がかりにチャンスを広げ、晶のバットで追加点を奪えるだろう。
「ボール! フォアボール!!」
 原田が出塁した。1ストライク3ボールから、低めにバウンドした球を見送り四球を選んだのだ。
 続く新村はバントの構え。しかし、正直、彼はバントが上手くない。
「あ」
 案の定、小フライを上げてしまう。だが、それはファウルゾーンに飛んでいたので、誰もが地面に簡単に落ちるものと思った。
 しかし、
「悟!」
 渚の声だ。捕手の悟が、ボールに飛び込んでこれを取ろうとしたのだ。
 頭から滑り込むが、及ばず白球は地を跳ねる。
「ファウル!」
 晴天の太陽に焼かれ、乾き始めた土埃が悟を包んでいた。
「むわ、げほげほ……ぺっぺっ」
 わずかに口の中に入ったらしい。それでも、笑顔を崩さず持ち場に戻る。


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