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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-115

 キン!!

 球の浮き上がりを捕らえ、耳障りのいい音を響かせた。思い切り引っ張った鋭い打球が、一塁線上を飛ぶ。
「おぉ!」
 城二大のベンチに控える面々が、身を乗り出して打球の行方を追った。
「ファウル!!」
 あ〜、とため息にわかる。わずか数センチ、白線の外だ。
(タイミングはよし)
 あとはボール球に気をつければいい。直樹は、四球目を待つ。
「?」
 マウンドにいた渚が、今まで以上に精悍な顔つきになった。何かを決意したような意志を感じる。
 怪訝に思った直樹だが、モーションを始めた渚に、注意を一点に込めた。その沈んだ右腕が繰り出す球筋に。
「あ!?」
 いきなり手前でワンバウンドした。捕手の山内が、それを体に当てて、後ろに逸らすのを阻止する。
(コントロールミスか?)
 そう思うぐらい、今までの配球が信じられないような暴投だった。
「いいよ、大丈夫、大丈夫!」
 捕手が何事もなかったかのようにボールを投げ返している。
(なんだ?)
 直樹は、とにかく5球目を待つ。
 低い位置から放たれた速球は、またしてもミットに入る前にバウンドした。ベースの固い部分にでもあたったか、おもうより跳ねたそれが悟の顎を打つ。
「あいたっ……」
 しかし、何事もなかったようにそのボールを返す悟。軟式とはいえ、顎への直撃は痛いだろうに、そんなことは億尾にも顔に出さない。
 少し直樹は混乱していた。今までの組み立て方ならば、この時点で“日の出ボール”がくるはずだからだ。それなのに、投げた球は明らかに暴投に近いもの。
「………」
 6球目も、やはりバウンドした。
「フォアボール!!」
 直樹は、一塁へ駆け出す。相手の意図はわからないが、とにかくこれで満塁となった。
「よっしゃ!」
 赤木が吼えて、ベンチが沸いた。なにしろ、一死満塁という絶好の場面で向かえるバッターは、主砲の亮。そのバットが生み出した打点は、リーグでも抜きん出てトップを走る。
「………」
 さしもの渚も、色を失っているようだ。
「渚ぁ、いい感じになってるよ!」
 ばすばすとミットをはたき、力こぶ。ついでに、ボディビルダー。

むきっ…

「………ぶっ、ぎゃははは! バカやってんじゃねえや悟!!」
 いつもは滅多に見られない悟の滑稽な動きに、余裕を失っていたはずの渚が笑った。
「きみ、ふざけちゃいけないよ」
「ごめんなさい」
 審判に注意を受けて、ぺこりと素直に頭を下げる悟。それさえも、渚の笑いを誘っている。
(……やるな、山内君とやら)
 投手に余裕を与える術を、いろいろ持っているらしい。例え自分がどんな非難と嘲笑を浴びようとも、マウンドにひとり戦っている投手を孤立させないために体を張っている。
(あの、帆波渚が再生したのは彼のおかげなんだろうな……)
 亮は、構えを取った。そこに美談があるからといって、簡単に勝ちを譲るほどお人よしではない。制球が乱れ始めた今こそ突き放す好機。
「プレイ!」
 審判の宣告にあわせて、渚が大きく振りかぶった。満塁の今、誰にも走られる恐れはない。
 大きなモーションから潜水するように低い位置まで下りた右手が、勢いよく振られた。
 胸元をえぐるようなストレート。それも、そうとう食い込んでくる。
「ボール!」
 仰け反った亮。それほどまでに、ストライクゾーンから外れていた。
 二球目、やはり、インコースに。それも、初球と同じようなボール球。
「ボール!!」
(?)
 おかしい。亮は、そのボールの回転を見て思う。なにか、違和感を覚える。
 三球目を待つ。今度は、ワンバウンド。直樹のときと同じように、高く跳ねたそれを必死に体で悟は止めた。またも、顎で。


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