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ロッカーの中の秘密の恋
【教師 官能小説】

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ドアの向こうの彼女-1

廊下から笑い声が聞こえて、身を起こした。かび臭いソファで寝るのはもう慣れた。だけどこの笑い声は耳慣れない。夏目だ。もう一人聞こえる声は、きっと茂木だ。
恐るべし。たまに自分の行動が理解できない時がある。とっさに隠れた。ロッカーの中に。ちょうど同時ぐらいに研究室のドアが開いて、やはり入ってきたのは夏目と茂木だった。
「あれ、教授がいない」
「茂木さん、このアンプル、冷蔵庫ですか?」
「あぁ、それは常温」
二人を標本製作のチームにしたのは他でもない僕だ。夏目は院生の中でもできるやつだし、茂木の役に立つだろうと安易に考えた。茂木が一般的好青年だということは忘れていた。二人の仲が急速に縮まる事なんて念頭にはなかった。
「それで、その映画最後はどうなるんですか?」
「あぁ、それで結局タイムマシーンを自分で壊して未来に留まっちゃう」
「もういいんだ、昔の恋人は」
「そう。なんだか訳がわからない」
夏目がふふっと笑う声が聞こえる。随分、気さくなもんだ。自分と普段接している彼女の様子とえらく違う。
「夏目さんは?普段映画は誰と見るの?」
「一人で見るんです。DVDでも劇場でも」
「へえ」
「変わってますか?」
「いや、夏目さんらしいかな」
彼女は決して大人しい訳ではない。だけど、何か一人で完結してしまっているところのある女だ。どこかよそに彼女の世界の中心はあるのだと思わせるようなそんなところがある。
「だけど、映画誘おうかと思ったから」
ロッカーの中を選んだ自分の直感を理解した。こういうことがあるんじゃないかと思ったのだ。この二人の本当のところが気になっていた。息を薄く吐く。
あぁ、と夏目がちょっと戸惑ったようなあいまいな返事をした。二人の間が少しぎこちなくなる。
「映画は口実だよ」
部屋が妙に静かに感じられた。ロッカーの狭さが急に苦しくなった。
「気がついてるかもしれないけれど・・・・夏目さんのことが気になってて。それで、色々知りたい。・・・・要するに好きだ、って事だけど」
この状況で一番心臓が踊っているのは、他でもない僕だ。賭けてもいい。音を立てないように妙に必死になった自分がおかしい。どれくらいかの沈黙のあと、口を開いたのは彼女で、すっと息を呑むのが聞こえた。
「あの・・・・よく考えます」
心臓以外はぴくりともうごかさずに地蔵のように固まってそれを聞いた。
「お願いします」
二人はその後、もってきた資料と薬品を整理して一緒に帰っていった。
転がるように狭いロッカーから出た。冗談じゃない。全てが、だ。全てが僕が思っている以上のことだった。夏目は茂木の前ではあんなに無邪気なのかとか、茂木は優等生面して押しが強いとか、僕はいい年してこんなに動揺しているとか。
週末、僕は彼女と茂木が映画に出かけたのか付き合うことになったのか気になってろくなものではなかった。
新しい週が始まったその日、夏目がやけに機嫌よさそうに見えて勘にさわった。
「にゃんこ、標本のチームもう解散していいよ。茂木一人で大丈夫でしょ。自分のテーマ、に戻っていいから」
「最後までやれます」
「だけど、締め切りもう近いし、そろそろ危ないでしょ」
「大丈夫です。来週、仕上がったところまで出しますからチェックしてもらえますか?」
「あぁ、はい」
負けた。彼女が茂木にこだわっているような印象さえ受けた。変な敗北感によろめいた。
「にゃんこ、僕なんか眠いから昼になったら起こして。」
呆れたような返事を背中で聞き、そのまま部屋の隅の汚れたソファにぐたりと倒れこんで不貞寝する。他に数人居る学生の足音をぼんやり聞きながら浅く眠る。ふわりと毛布が掛けられた。あぁ、彼女だ。毛布の上からそっと肩を撫でられる。いつもそうだ。僕がソファで眠りこけるとこうして毛布を掛けてくれて、そっと撫でられる。その滲んだ雰囲気はやっぱり思い過ごしなのか。変な焦燥感を感じつつそれでも眠ったのは週末がよく眠れなかったせいだ。彼女がどこかに居るこの部屋なら安心して落ちていける。


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