Cross Destiny
〜神竜の牙〜A-10
「なんで、なんであんたは・・・そこまで」
レーヴェスは重傷を負ってまで自分と戦おうとするヴェイルを不思議に思った。
「お前は俺のたった一人の弟だからだ!」
ヴェイルの言葉にレーヴェスの冷たい目が少しだけ解れた。
「俺はお前に黄泉羽を抜けてもらいてえんじゃねえ、お前の正義はお前が、お前の生き方はお前が決めればいい。」
ヴェイルは続けた。
「だがな!苦しむお前を独りで歩かせたりはしねえ!!」
ヴェイルは血を流しながら双剣を力強く逆手に構えた。
「忘れ物を届けてやる!!」
ヴェイルは"トン""トン"と軽いステップを踏む。
そして次の瞬間、レーヴェスは自分の周囲に四人のヴェイルが取り囲むのを見た。
「こ、これは!!」
「皇華無刃流双剣術奥義!
刻冥閃・刹那(こくめいせん・せつな)!!」
【刻冥閃とはロイドの最終奥義であり、超高速で敵の周りを移動し、その状態から神速の連撃を叩き込む技である】
四人のヴェイルから神速の斬撃が次々に放たれる。
「ぐわああ!!」
そしてそれを受けたレーヴェスの体中から鮮血が舞う。
勝負はあった。
レーヴェスはその場に倒れ込む。
しかしヴェイルの斬撃はすべて急所を外れておりレーヴェスは致命傷を負ってはいなかった。
「その・・・技は」
横になったままレーヴェスがつぶやく。
「そうだ、これはロイドさんの技だ。」
レーヴェスには不思議と敗北感はなかった。
自分には修得できなかったロイドの技を放ったヴェイル自身に、ロイドの影を見たからだ。
「あんたの言う通りだ」
レーヴェスが語る。
「俺は自分の無力さで両親も故郷も無くし、そしてロイドさんまで死なせた。
俺は誰も守れない!・・・俺は」
「・・・・」
ヴェイルは黙って聞く。
そしてレーヴェスは続けた
「力の無い自分が許せなかった。だから力を求めた!
そんな時、黄泉羽に誘われた。
俺は黄泉羽として戦った。戦って戦って力を付ければ失ったものが戻ってくる!そんな気がしていた。」
「・・・レーヴェス」
ヴェイルにはレーヴェスの気持ちが痛い程解った。
当然だった。自分も戦争で両親を亡くし、そして再び恩人のロイドを亡くした。レーヴェスと全く同じ境遇だったからだ。
そして自分の目の前で再び大事な人を守れなかったレーヴェスの苦しみが自分以上だということも。
「そして今・・・俺が付けたと思っていた力が幻想だということが解った。もう生きる理由も無い。」
静かに目を閉じるレーヴェス。
「馬鹿野郎!!」
ヴェイルの怒声が響いた。
「・・・・」
レーヴェスは目を開いた。
「ロイドさんがどんな思いでそいつ(エルグライド)をお前に託したかも解らねえのか?」
「・・・」
「ロイドさんはその武器を『自分の生きた証』と言った!その武器を託されたお前はロイドさんの生きた証を背負って生きてんだよ!!お前はそれを、ロイドさんの足跡も努力も優しさも・・・・否定しようってのか!!」
「・・・・!!」
「なあレーヴェス、立ち止まるなよ。俺達は死ぬほど重いもん背負ってるけどよ、立ち止まったら俺達が一番大好きだった人の生きた証まで失わせちまう。それだけはしちゃいけねえよ。
ただ重くて持てなくなったら一緒に持って歩けばいいだろ?」
「・・・」
「あ、二人とも重いもん持ってるんだから一緒に持っても同じか。・・・・・うーん困った。」
レーヴェスは再びヴェイルにロイドの面影を見た。
「・・・・・はい」
一方 フォルツはアシェルと共に階段を登り終えた。二階は幾つかの扉があり、その中でもはずれの一番大きな一つの鉄制の扉にたどり着いた。
そしてアシェルがその扉に手をかけた。