『欠片(かけら)……』-6
「やっぱ、笑っちゃいますよね俺なんかに言われても……すいません」
失笑されたと勘違いしたのか彼はがっくりと肩を落とす。そんな仕草を見て少し羨ましいってあたしは思った。感情を素直に体全体で表現する初々しさが懐かしくさえ感じる。あたしにもあったのよね、こんな頃が……
テーブルの上で硬く握られた彼のこぶしにあたしはそっと手の平を重ねる。一瞬身体を震わせて自分の手を見つめた後、彼は信じられないモノを見たような顔であたしを見た。
「ごめんなさい。馬鹿にしたワケじゃないの。突然そんなコト言われたから驚いちゃって……とっても嬉しいわ。笑ったりして失礼だったわよね、許してもらえるかしら?」
言葉の返事は返って来なかったけど、やっぱり彼は全身で返事してくれた。
「お詫びにってワケじゃないけど、今日一日あたしとデートでもしない?」
「ええっ!?お、俺とっすか!?」
「他に誰がいるのよ?もちろん迷惑じゃなければの話しだけどね」
「迷惑だなんて!光栄っす!!」
席を立ってあたしがそう言うと、つられるように立ち上がり彼は答えた。
「そ、よかった。じゃあエスコートして?行き先は韮崎くん……デートなのに苗字で呼ぶのは堅苦しいわよね。亘くんに任せるわ」
あたしの言葉に文字通り一喜一憂するって感じの彼の反応が面白くて、少し悪ノリしてみた。期待を裏切るコトなく彼はヨロヨロと崩れると両手をテーブルについて肩で息をしている。
「宮原さん……俺、心臓止まっちゃいますよ」
「ダメよ。苗字は堅苦しいって言ったでしょ?あたしのコトも澪って呼んでくれなくちゃ……」
顔色ってこんなにくるくる変わるのかしら?って思う程に彼は赤くなったり青くなったりしている。この女性に対する免疫の無さ、きっと童貞なのかもしれないなぁってあたしは思っていた。
「えっと……じゃあ、宮……澪…さん。か、体を動かすのは好きですか?」
「身体を?ええ、大好きよ」
もっとも最近は身体を動かすのはベッドの上に限定されてるけど……
あたしはね、あなたが尊敬するような女じゃないのよ。
「澪さん、ボーリングにでも行きませんか?思いっきり体を動かせば気分転換になるかなって思ったんですけど」
少しの間、ア然とした後にあたしは頷いて笑う。
ふふっ、あなたらしい行き先ね。変な聞き方するからてっきり明るい時間から一緒にシャワーを浴びるとこにでも行くつもりなのかと思っちゃったわよ。
「いいわね。じゃあ行きましょうか?」
そう言って柔らかく腕を絡めて寄り添うと、まるで全身に芯棒を入れたみたいに彼はガクガクと変な歩き方になる。
「ちょっと、亘くん。変な歩き方しないでよ、歩きにくいわ」
「や!…あ…すみません。あの、澪さんって大胆なんすね」
「何で?デートなんだから腕ぐらい組むでしょう?」
「そ、そうっすね」
頭から湯気が出てるぐらいに赤い顔、さっきはああ言ってみたけど彼がそんなとこに行くはずないのはわかり切っていた。だって軽く胸を押し付けただけでこんな感じなんだもの。