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『欠片(かけら)……』
【大人 恋愛小説】

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『欠片(かけら)……』-5

なんだかすべてが馬鹿馬鹿しくなって新しい恋なんて捜す気力さえ湧かない。そうよ、男に振り回されるなんてもうゴメンなの。これからは自分の為に生きていくんだから……

それ以来、上辺だけは合わせても他人に対して本音を言うコトはなくなり、行きずりの男に身を委ねるコトすら平気になっていった。

言葉より正直な身体の繋がりは、決してあたしを裏切らない。例えそれが一時的だったとしても……

それから、あたしは仕事に打ち込み始めた。取り分け仕事が好きなワケじゃないけれど日々忙殺されると余計なコトを考えずに済むから。そのせいか、最近のあたしは休日を持て余している。認めたくないけれど、理由もわかっているんだ本当は……


「あの、宮…原さん?」

 不意に誰かがあたしに声をかけた。声のした方へ顔を向けると見覚えのある顔があたしを見ている。だけど私服のせいか名前が思い出せない……

「えーと、あなたは……どなた?」

軽くずっこけるような仕草の後に彼は口を開いた。

「俺、そんなに印象薄いですか?同じ総務課の韮崎(にらさき)ですよ」
「あ!…ごめんね。私服だからわからなかったわ。韮崎くんこそ、こんなとこで何してるの?」
「買い物っす。宮原さんもですか?」

あたしは軽く微笑んで小さく首を振る。すると彼は何かを思い付いたように姿勢を正すとあたしに向かって頭を下げた。

「お邪魔してすみませんでした。じゃあ俺、失礼します」

買い物でもなく人目に付くテラスに一人で座っている……彼はあたしが誰かと待ち合わせしていると勘違いしたみたいだった。

「あ、韮崎くん違うのよ。暇だったから出掛けてみたけど何も思い付かなくて一人でアフタヌーンティーしてるってとこ。ねぇ、急いでないなら座らない?」

あたしがそう声を掛けると、おずおずって感じで韮崎 亘(わたる)はあたしの向かい側に座る。

彼はあたしの三期下、大卒の新入社員で入社して三ヶ月の研修を終えて、総務課に配属になった。そんな彼はあたしに言われて腰掛けたものの、居心地が悪いのか何なのか固まったまま落ち着きがない。

「ねぇ、韮崎くん」
「は、はい!」
「そんなに力入れてると肩凝らない?」
「あ!そ、そうっすね」

言われて返事はするけれど、ちっとも力は抜けてないみたい。先輩に言われて仕方なく……って感じなのかしら?悪いコトしちゃったのかな?

「無理に引き止めちゃったかな?」

あたしがそういうと彼は更に背筋を伸ばす。

「いえ!全然そんなコトないっす。あ!ないです」
「やだな、社内じゃなくてお互いプライベートなんだから普段の話し方でいいのよ?」
「す、すいません。さっきから俺、緊張してて……」

彼の言葉にあたしは思わず目を丸くする。

「緊張?なんで?」
「だって今、宮原さんと二人っきりなんすよ?あの宮原さんと……」
「あのって……総務課に宮原はあたししかいないけど?」
「当たり前じゃないっすか!俺、尊敬してるって言うか憧れてるって言うか……あ!!いや!とにかく、その宮原さんと二人っきりなんて、突然のコトなんで何をどうしたらいいかわかんなくって」

尊敬?憧れ?しばらく聞いたコトがない自分への言葉に、あたしは思わず吹き出してしまった。


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