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『欠片(かけら)……』
【大人 恋愛小説】

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『欠片(かけら)……』-7

 その日は久しぶりに楽しんだ気がした。頭を空っぽにして遊ぶなんてどのくらい振りだったろう。そして今、あたし達は居酒屋のボックス席にいる。

「今日は付き合わせて悪かったわね。お陰で楽しめたわ、ありがとう」

彼のグラスにビールを注ぎながら、あたしは言った。実際に充実した休日だったと思う。久しぶりの心地よい疲れがいつもより食事を美味しく感じさせる。

「何言ってるんですか。俺こそ宮原さんと過ごせて楽しかったですよ。それにやっぱりご飯は一人で食うより誰かと一緒の方が美味いじゃないですか」
「へぇ、一人暮しなんだ。いつから?」
「大学の時からです。もう慣れたつもりでしたけどね。俺、地元じゃないんですよ。だから休みの日は一人ご飯っす」

つまみ上げた唐揚げを頬張りながら彼はそう話した。美味しそうに食べる仕草を見ていると何故だかあたしまで和んでいく気がするから不思議だ。

「まだデートの続きなのよ?苗字で呼ばれるのは嫌だな」
「あ、すみません!俺、年上の人を名前で呼んだコトないから緊張しちゃうんですよ。気を悪くさせちゃいましたか?」

彼の言葉にあたしは笑って首を振る。なんだろう……彼がとても可愛く感じる。素直さが眩しくさえ映る。だけど同時に疎ましく思い、彼を汚(けが)したい衝動に駆られてしまう。

あたしの中のどす黒い女の部分が疼き出してしまうのだ。歪んだ感情……それは彼の中にあの日の自分を見てしまったからだろうか?それはきっと妬みなのかもしれない。



「ん〜〜美味しかった。亘くん、本当にご馳走になってよかったの?」
「澪さん、まだデート中なんですよね?だったら俺持ちっすよ。あはは」

そういって彼は笑う。
火照った身体に夜風が気持ちいい……

「じゃあ、駅まで送りますよ。澪さん今日は楽しかったです、ありがとうございました」

予想通りの言葉だった。健全なデートならここで終わりなんだろう。でも疼き出してしまった感情を抑えるコトが出来ない。そう、あたしの身体は男を求めている。

「これで終わりなの?」

あたしは呟いた。

「え?何ですか?」
「だから、デートはこれで終わりなの?って聞いてるの」

その言葉に彼の顔から笑みが消える。

「あなたももう大人でしょう?あたしに最後まで言わせるつもり?」
「いや、でも俺……」
「まだ今日は終わってないわ。一日エスコートしてくれるんじゃなかったの?」
「澪さん、俺……!」

途中まで言いかけた彼の言葉をあたしはキスで塞ぐ。

「言葉は……邪魔よ」

そういうあたしに少し躊躇(ためら)った後に亘は男の顔を覗かせて頷いた。


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