『欠片(かけら)……』-4
「ずっと部屋にいるのもいい加減、滅入って来るわよね」
休日の昼下がりにそうつぶやいてあたしは外へ出掛けた。だけど特に欲しいモノがあるワケでもないし、観たい映画があるでもない。結局、数時間後には歩き疲れてテラスのある喫茶店でアイスティーを飲んでいた。
「はぁ…何やってんだろ、あたし……」
こうやって一人で座っていると、まるで誰かを待っているみたいに感じる。決して来るはずのない誰かを……
『別れたいってどういうコト?』
これは昔のあたしの台詞(せりふ)。
『言葉通りの意味さ。正直お前って重いんだよ、じゃあな』
そしてこれは当時付き合ってた男の台詞。
『待って!そんなコト言わないでよ。あたしに悪いとこがあるなら直すから。別れるなんて言わないで……』
あの時、あたしにとってあの人がすべてだった。彼の望むまま髪の毛の色も髪型も服の趣味さえも変えた。だけどあの頃のあたしは幼さゆえに気付かなかったのだ。盲目な想いは彼を傲慢にして、やがてあたしは単なる都合のいい存在へと変わってしまったコトに……
『それが重たいんだよ。なんで俺に合わせるだけなんだ?悪いけどお前といると息が詰まるんだ。お前ももっと軽く生きろよ。じゃあ俺、もう行くから』
目の前の席を立ち、歩いていく彼の後をあたしは追えなかった。自分がどうしたらいいのかわからなくて……
『話、終わったの?』
『ああ、今別れてきたよ』
耳に飛び込んだ会話に顔を上げると見知らぬ女性と楽しげに腕を組んで笑う彼が映った。
今、あたしは捨てられたんだ……
やけにくっきりとそのコトだけが心に残って、あたしは泣いていた。自分が憐れなコトに気付き、それが悔しくて……
だから自分を変えようと決めた。自分らしさを見失わない為に、自分を主張できるように……
そんなあたしの新しい呼び名は『可愛いげのない女』になった。