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『欠片(かけら)……』
【大人 恋愛小説】

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『欠片(かけら)……』-3

 彼女の名前は成瀬 由稀(なるせ ゆき)。あたしの二期下になる後輩で秘書課に配属されている。研修の時に直接指導したコトがきっかけで今も親しい間柄。総務のあたしでさえ時々される程、重役のジジィ達はセクハラが趣味らしい。

まぁ、軽くお尻を触る程度だから我慢出来るんだけど、この娘は秘書課だからあたし以上に被害にあってるはず。だけどいつも笑顔を絶やさない本当にいい子なんだ。

だけど……

「寿也さん、真面目にやってますか?」

その言葉に軽い罪悪感が襲ってきた。

「あ、うん。今日も遅刻して課長に怒鳴られてたけどね。由稀ちゃん、ちゃんと教育しないとダメだよ?じゃあ、あたし先に行くから」

何ともいたたまれない気分になって、あたしは逃げるように給湯室を後にする。そう、彼女は寿也と付き合っている。

どんな付き合いかって言えば、そう遠くないうちに二人の薬指にはお揃いの指輪が光るだろう……そんな真面目な付き合いって奴だ。そしてあたしと彼はフマジメなお付き合い。


彼女が与えられたのは愛情というカタチのないモノ。
あたしが与えられたのは快楽というカタチのないモノ。

いつか彼女は両方を手にするだろう。だけど、あたしは愛なんて不確かなモノよりも純粋な快楽だけでいい。そこには打算も駆け引きも存在しないから。


「はいコーヒー。ブラックでいいんでしょ?」

彼のデスクにカップを置いて、あたしは残りの仕事に取り掛かる。そろそろこの関係も終わらせなきゃならないかなって、最近あたしは思う。
居心地のいい相手だったけど彼女に対する罪悪感がないワケじゃない。あたしは相手を束縛するのが嫌だ。それはいつしか不満に繋がって互いの関係に亀裂を入れてしまうから。

あんな思いは……
もうゴメンだ。



 その日の仕事を終えて、あたしはのろのろと帰り支度をする。せっかく明日は休みだというのに憂鬱な気分にあたしは溜息を付いた。
いつからか、あたしは休日が嫌いになっていた。自分の部屋に一人でいるのが堪らない。きっとそれはリアルに孤独を感じてしまうからだろう……

「澪、帰りに飯でも食っていかないか?」

突然話し掛けられて顔を上げた後、あたしは急いで周りを見る。

「大丈夫、俺しかいないよ」

そんな仕草を見て寿也は溜息混じりに笑った。

「本当に気をつけてよね。変な噂が立ったら困るのはあなたでしょう?」
「ああ、わかった。で、どうする?」
「やめておくわ。そんな気分じゃないし寿也だって連戦でシたいってワケじゃないでしょ?」
「本当に飯に誘っただけだよ。もしそういう気分なら……」
「今日、お前を抱きたいんだ……でしょ?寿也のストレートな言い方は好きだけど、食事だけならなおさら遠慮しておくわ」

あたしがそういってバッグを手にすると寿也は軽く肩を竦めた。多分、彼は気付いているんだろう。あたしが休日に一人でいるコトを嫌っているのを……

時折、さりげなく見せる寿也の優しさは適度に振り掛けられるスパイスのような優しさであたしを疼かせる。だけど、身体の繋がり以上のモノを彼に求めるつもりはない。あたしと彼はこのままの関係でいい……


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