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記憶のきみ
【青春 恋愛小説】

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記憶のきみ5-6

ゆっくりと歩いているうちに、悦乃の自宅に着いた。
けっこう大きな一軒家だ。
『………じゃあな』
「…うん、ありがとう」
『ちゃんと寝とけよ。暇があったら検査にも行けな』
「……はぁい」
悦乃は小さく言う。
それを聞くと、瞬は振り返り、来た道を歩き出した。
「瞬くん!」
すると突然、悦乃が精一杯の声で呼び止めた。
『……』
「悦乃って呼んでくれてうれしかった…よかったらこれからもそう呼んで…?」
気付いていたのか。
『ああ、じゃあな、悦乃』
「……うん!」
俺は、悦乃が家に入るのを見届けてから、歩き始めた。


悦乃は帰宅すると、リビングに入り、洗い物をしている母に声をかけた。
「……ただいま」
「あら、おかえり、ずいぶん早いじゃない?」
悦乃の母は、掛け時計に目をやると、大袈裟に首を傾げた。
「久しぶりに発作が起きちゃって…直前で帰ってきちゃった。電車で少し見えたけど」
「まあ…一人で大丈夫だったの?」
「……一人じゃないよ。瞬くんが一緒にいてくれたから…」
悦乃は浴衣を崩しながら話す。口からは自然に笑みがこぼれる。
「お母さん、覚えてる?常葉瞬くん」
母は少し考えると、遠い目をしながら言った。
「もしかして…あの瞬くん?あの小学生のときの」
「うん。偶然また会ったの」
「すごいわね…もう十年以上前になるものね」
「うん…やっぱり、私の名前くらいしか覚えてないみたいだけどね」
「それはそうよ。彼にとっては些細な出来事だもの」
「うん……」
「彼とはお付き合いしてるの?」
「……もちろんしてないよ。まだ言ってないもん、“私はあのときの悦乃よ”って」
「……言わないの?」
「………うん」
「……お薬飲んで、はやくお風呂に入りなさい」
「はぁい」
話は終わり、悦乃は小走りでバスルームに向かった。
「いつか、言わないとな……」



「大丈夫かな、悦乃」
「だといいけど」
「瞬のやつ、やっぱり悦乃ちゃんやなー」
「そうだねー!普段、瞬が率先して送るとか言わないもんね」
「やなー♪」
「………瞬」
四人は花火を見終え、帰宅し始めた。



瞬は再び電車の中。
俺は……これから悦乃を守りたい。



それぞれの思いは交錯する。


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