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記憶のきみ
【青春 恋愛小説】

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記憶のきみ6-1

『………うん、うん、そうか、よかったな』
「うん!瞬くん、本当にありがとう」
悦乃は夏祭りの翌日、由貴と葵に体のことを話したらしい。
もちろんわかってくれたらしく、悦乃は明るい声で俺に話している。

夏祭りの一件以来、俺と悦乃はより親密になっていった。
なにかあれば、いや、なくても電話やメールは頻繁にやっているし、放課後には二人で街に出ることもあった。
悦乃が俺のことをどう見ているのかはわからない。でも、俺は悦乃を守ってやりたくなるんだ。

なぜか…………




「あたし…どうしたらいいのかな……」
由貴はしゅんとした顔で足下を見つめている。
「えっちゃんには全く悪気はないと思うけど」
「わかってる…」
由貴と葵は“瞬”について話していた。
「瞬くんだって悪気はないよ。だって、由貴ちんが瞬くんのこと好きだなんて知らないよ?」
葵はすごく冷静だ。
きっと、こんな経験もあるんだろう。
「でも…青空くんが…」
「そうよね、青空くんは由貴ちんのこと気に入ってくれてるんだもん。ほいそれと瞬くんにアタックなんてできないよね」
「…………」
「複雑だねぇー」
葵はテキストを広げる。模擬試験が近いのだ。
「あたし…どうしたらいいのかな…悦乃と瞬が親しくなればなるほど…苦しくて…でも…なにもできないあたしがいる」
「……考えなよ、たくさん」
「……うん」
由貴もテキストを開く。




「瞬に聞いた」
「うん」
「悦乃ちゃん、大変なんやな」
灰慈と青空は、居酒屋“武士道”で話していた。
「……瞬は、悦乃ちゃんのこと好きなのかな」
「あいつは言わねーからな…昔から」
「……時々、瞬がうらやましいよ」
「……なんでや」
「あいつはクールでいつも率先なんてしないのに、気付けば確実に物事をこなしていてさ…最後にはいつも欲しいものを手に入れてるんだ」
「……せやな」
「俺たち…結局はいつもバラバラだよね」
「たしかに…三者三様やな」
「俺はさ、由貴ちゃんのことを好きになって…マジになっていいのかわからない」
「……」
「きっと…由貴ちゃんは、瞬のことが好きだから」
「……」
「すごく苦しいよ」
「………俺もええか?」
「うん。この際だから吐くといいよ」
「さんきゅ……」
「で、なに?」
「………俺はな、いつも先手をとれんのや」
「…先手?」
「せや。俺はこんなケラケラした性格やねんけど、肝心なものが足りてないねん」
「……」
「……勇気や」
「え?」
「俺は肝心なとこで何もでけへん。せやからいつも、周りより出遅れるねん」
「……」
「……ほんま、瞬とは正反対で笑えるわ…いつも俺の欲しいもんは手元からこぼれ落ちてしまう…」
「……負けられないね。自分に」
「……ああ、俺とお前も、これからどうなるかわかんねぇしな。こうなりゃ、どうなっても、恨みっこなしやで」
「うん…」
「……あかん。滅入ってきたわ」
「うん…」
「飲むで」
「うん、飲もう」


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