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記憶のきみ
【青春 恋愛小説】

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記憶のきみ5-5

瞬と悦乃の二人は電車に乗り込み、空いている席を見つけると、ゆっくり腰を下ろした。
『……大丈夫か?』
「うん……瞬くん、ごめんね」
『ばか……』
「みんなと一緒に花火…見たかったよね…」
『……』
なんて言ってあげればいいかわからない。
だが、その瞬間…
『!………悦乃』
「え?」
『見てみろよ』
「……あ!」
窓の外、夜空には美しい“花”が次々と舞い上がっていた。
『綺麗だな……』
「……うん」
『………お前と見れたからいいや』
「……え?」
『………なんでもねーよ』
「………うん」
二人は、見えなくなるまで窓の外の情景を眺めていた。

花火が見えなくなってから数分後、悦乃は眠ってしまった。
『………』
悦乃の小さな頭は俺の肩に寄りかかっている。
『………』
俺は、さっきからつい勢いで“悦乃”と呼んでいることを思い出し、一人で苦笑いしていた。


「あ…肩かりてた…ごめん」
あれからさらに数十分経った頃、悦乃は突然起きた。
『今ちょうど起こそうとしたんだ。もう着くぞ』
車内アナウンスが流れ、駅に着く。
二人は下車すると、改札へと向かった。
『具合はどうだ?』
「……寝てたらだいぶ楽になったみたい…やっぱり調子に乗りすぎたね」
悦乃は力の無い声でアハハと笑った。
もう黙って見てなんていられない。
話を切り出そう。
『……なぁ』
「……なに?」
『……風邪じゃねーだろ?』
「……え?」
『そりゃ、どんなにバカでも気付くだろ。あんなに元気だったのに、途端に倒れたら……流石に。』
悦乃は見るからに“バレちゃったか”と言いたそうな顔になった。
「私ね……体、弱いんだ」
『………』
改札を出て、さらに歩き出す。家はそう遠くないようだ。
「別にドラマでよくあるような重病とかじゃないの…ただ、生まれつきなんだ…」
『………そうだったのか』
やはりなんて言えばいいのかわからない。
「昔はよく入退院を繰り返してたんだよね…」
悦乃の事情に強い衝撃を受ける。
『……』
「しばらく検査を受けてなかったし…最近は調子よかったから大丈夫だと思ったんだけどね」
『……由貴と葵ちゃんには言ってるのか?』
「……詳しくは言ってないの。心配かけたくないし」
『……言っとけよ。二人は絶対に悦乃の味方だろ』
すると悦乃はうれしそうに笑った。
「……うん!」


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