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記憶のきみ
【青春 恋愛小説】

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記憶のきみ5-4

そして、六人は再び合流し、花火の見える場所までぞろぞろ歩き始めた。
「瞬たちは何しとったん?」
『……ヨーヨー』
「わたあめぇ♪」
悦乃は自慢気にわたあめを掲げる。
「わぁー♪えっちゃん、一口ちょうだい♪」
「だめっ!」
「むー」
葵が手を出そうとしたのを悦乃は防ぐ。
よほど、わたあめが嬉しかったのか。
なんだか、本当にすごく子供に見えてきた。
でも、マジで嬉しいんだよな。なんかよかった。
『あ………あれ、由貴それどうした?』
気付けば、由貴は両手に“子犬”を抱えていた。
一瞬、大笑いしてしまいそうになった。
おっと、うっかり殴られるところだった。危ない危ない。
それにしても、まさかあの由貴が両手にぬいぐるみとはな。
「アッハッハ」
青空が笑う。
「なに笑ってるのよ、青空くん!」
どうやら青空が調子に乗ってしまったようだ。
少年野球であんなに有名だった投手だ。無理もない。
なんでそんなこと知っているかというと、実は俺も少年野球をやっていたからだ。
当時注目されていた、樋という投手が青空だったと知るのは、出会ってしばらくのことだった。
少々、話が逸れた。
まぁ青空は、よほど気合いが入っていたのだろう。多少、不器用だが、なんとかうまくやれているようだ。

「瞬は……悦乃といて楽しかった?」
「……由貴ちん」
由貴は突然そう聞いてきた。
葵は不安げな顔でこちらを見ている。
どういうことだ…?
『ああ、まぁ楽しかったよ』
「……そう」
「……あぁ!ここなんかいいんじゃないかなー!?」
青空は、なぜかわざとらしく大きな声を出して言った。
「おー♪ええやん」
そこは、小高い丘になっていて、木々の間から、目前にちょうど空が広がっている。
先客は何人かいるが、まだまだ広いので気にするほどでもない。
「あと20分か…まぁ座ろう」
みんな、ゆっくりと地面に座る。
「下に敷くもの持ってくればよかったねー」
「うんうん!敷き布団なんか最高だね」
「……」
今か今かと花火の開幕を待つ面々。

だが…………

「…………はぁ」
『………悦乃ちゃん?』
「……はぁ…はぁ……っ」
悦乃は顔を真っ赤にし、目は虚ろ。息も荒い。
「どうしたの!?悦乃!?」
悦乃はヘタッと倒れ込む。
「あかん!救急車!」
灰慈がケータイを取り出す。
「待って!」
悦乃は声を振り絞る。
「でも……えっちゃん!」
葵はオロオロしている。
「たぶん…ただの風邪だから……心配しないで…」
「でも!」
「救急車なんてきたら…大騒ぎになって花火が見れないよ」
そのとき、いつもは黙っていた俺だが、ふいにこんな言葉を口にした。
『………わかった、悦乃は俺が家まで送るよ』
「………」
「………瞬」
「瞬くん……」
『ほら、立てるか?』
「…うん」
瞬は悦乃に手を貸す。
「みんな……せっかくの集まりを台無しにしちゃってごめんね…花火…楽しんでね」
悦乃はフラフラしながら頭を下げた。
「悦乃…気をつけなさいよ!」
「お大事にね!悦乃ちゃん!」
「気にしてないからね!瞬、ちゃんと送ってやれよ」
『……おう』
二人はゆっくりと丘を下り始めた。
「……心配やな」
「うん…」
由貴の顔が雲る。
「………瞬」


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