投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

記憶のきみ
【青春 恋愛小説】

記憶のきみの最初へ 記憶のきみ 17 記憶のきみ 19 記憶のきみの最後へ

記憶のきみ5-3

「………」
青空は料金を払い、ボールの感触を確かめると、すぐさま野球のピッチングのように振りかぶった。
「………っと」
勢いよく投げられたボールは、ど真ん中ストライクで的を射抜いた。
「すごーい!」
由貴は本当に嬉しそうに笑顔を浮かべて拍手した。
「あはは…はい、あげる」
青空は小さな子犬のぬいぐるみを由貴に差し出した。
「え……ありがと」
由貴は顔を真っ赤にした。
『……(あいつ、喜んでやがるな)』
由貴のこういうところが懐かしい。
瞬が苦笑いしていると、横から視線を感じる。
「…………」
『………なに?』
悦乃だった。
「瞬くんは何もしないの?」
『……あ、ああ、俺は』
「もう!楽しまないと!」
悦乃はそう言うと、瞬の腕を引っ張った。
『おいおい…』
「あ!これやろ!」
悦乃がすごく子供に見える。
『……ヨーヨー釣りか』
足元には水面に浮いた無数のヨーヨー。そしてしゃがみ込んでいる子供達。
『……マジでやんの?』
「うん!」
悦乃はニカッと笑う。
『……』
瞬はしぶしぶ二人分の料金を払い、クリップに紙を巻きつけた“釣り針”を受け取り、悦乃に差し出す。
『……ほれ』
「……いいの?」
『いいよ。恥ずいからさっさとやるぞ』
「……はぁーい」
悦乃は浴衣の裾を上げて、ヨーヨーをとることに集中し始めた。
俺は、つい横顔を盗み見る。
『………』
こんなことで真剣になるなんて、すごい子供だ。
でも………可愛い。
「あー!ダメだった…」
悦乃は水に濡れた紐を悲しそうに見つめた。
『……うし』
瞬は集中した。
クリップをヨーヨーの輪ゴムにかけ、ゆっくりと引き上げる。
ヨーヨーが水面から出る。
「もうちょっと…」
しかしその瞬間、ヨーヨーは真下に落下してしまった。
「あ」
『あ』
パチャッと小さな音を立てて水の上に着地し、ヨーヨーはすぐにどれだかわからなくなった。
「難しいね…」
『………はは』
なにマジになってんだ…俺は…
でも……悦乃の笑顔が見たかったのかもしれない。
『……さて』
合流しようかと悦乃に言おうとしたが、遮られた。
「あれ食べたい!」
『………わたあめか』
向かいの出店ではわたあめを売っていた。
『しょうがねぇな…』
瞬はわたあめを一つ買って、悦乃に手渡した。
「ありがとう!」
『テンション高いな』
すると、悦乃の顔にすっと影がさした。
「……はじめてなの」
『……』
「お祭り…」
マジかよ。だからこいつはこんなにも…
「だから舞い上がって一人だけ浴衣なんだぁ」
アハハと悦乃は小さく笑う。
『……いいじゃねぇか。その……よく似合ってるよ』
悦乃の肩をポンと叩く。
どんな顔をすればいいかわからなかったから。俺は誤魔化したんだ。
「ありがと」
悦乃も複雑そうな顔で言う。その……しっかりわたあめを食べながら。


記憶のきみの最初へ 記憶のきみ 17 記憶のきみ 19 記憶のきみの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前