アッチでコッチでどっちのめぐみクン-53
「あのぉ、お客さん……」
老婆がおずおずと話しかけてくる。
「あ? ああ、すまない。そういうことだから、宿代はこいつから直に貰ってくれ」
ディグは老婆に気づくと、そう言ってサイファの方を親指で差す。
「いやぁ、そうでなくってぇ……」
「え?」
「お客さん方は、これからお城に行きなさるんですよね。なら、機会があればでいいですから、私の孫に私の言葉を伝えてほしいんじゃがのぅ……」
「あぁ、なるほどな。で、なんて伝えればいい?」
「そうじゃのぅ……男なんていくらでもおる。しようもない男に一度ふられたぐらいでヤケになったらいかん……そう伝えておいてくださらんかのぅ」
「……それは……そっとしておいてあげた方がいいんじゃないかな……」
ディグは少しの間沈黙した後、老婆にそう言った。
「でもこの前、孫が手紙で泣きついてきましてのぉ……」
「だからって赤の他人にそんな伝言届けられたら、かえって落ち込みますよ」
「そうかのぅ……それじゃ、元気でやりなさい、と言ってたとだけでも伝えてくださいな」
「そうですね。それで充分なんじゃないでしょうか……ところで、お孫さんの名前も一応聞いておきたいんですが。人違いしたら困りますからね」
「そうですなぁ。今はこの写真の頃より随分成長しましたし、垢抜けててすぐにはわからんかもしれませんの」
そう言って老婆は写真立てを手に取り、少女の写真をまじまじと見直すと、ディグ達に見えるように、表側をカウンターの外に向けて写真立てを置いた。
「えぇ、ですから名前を」
「私の孫はロキシー、ロキシー・テムテといいます」
「ロキシーさんですか……どっかで聞いたような……?」
「あ、ほら、ジョーカルやバーグ三兄弟と一緒に私達を迎えに来た娘じゃなかったかしら?」
そう言ってルーシーがディグの肩を叩く。
「! ああ、あの、握手して下さいとか言ってた娘か」
ディグが写真立てに飾られた少女の写真に目を向ける。
そこには昨日会ったどんぐり眼の少女が、それより少し幼い姿で微かな笑みを浮かべていた。
……………
同じ頃、フローレンスはシープを捜して城内を歩き回っていた。
……この辺りにいるとか聞いたけど……
フローレンスは、中庭に面した廊下を歩きながら、シープの姿を捜す。中庭では十数人の剣士が訓練をしていた。
その中の一人、黒髪で一番小柄な少女が、フローレンスの姿を見つけ、訓練を中断して駆け寄ってくる。
「フローレンス様」
「え? あら、ロキシー。調子の方はいかが?」
ロキシーと呼ばれた少女は、フローレンスの前でぴたっと立ち止まると、フローレンスの顔を見上げてにっこりと微笑んだ。
「はい。まぁまぁです」
「ふふっ、こういう時は嘘でもいいから調子がいいと言っておくものよ」
「そうですか? じゃあ、絶好調ですっ」
「はい、よくできたわね」
フローレンスが小さく拍手する。ロキシーは照れて赤くなった顔を下に向けた。
第15話 おわり