アッチでコッチでどっちのめぐみクン-32
「ディグとルーシーがあれほどの有名人でありながら失踪後全く行方が掴めなかったのは、彼らがいた場所が異世界だったから、なんてこととはね。そりゃ見つからないはずだわ」
「お二方は古代術法を修得なさっていたのでしょうか?」
「……そうかもね。異世界を行き来する術って、確か遠い昔に封印された古代術法の一つだったはずだからね。それに、あの娘が本当は男の子なのに女の子にされたって話、あれも本当なら古代術法のしわざよ」
「だとしたらディグ様、ルーシー様、ジョーカル様ともう一人、古代術法を使える方がいるってことですよね」
「そいつをディグとルーシーは追ってるって話だけど、私は真犯人はジョーカルだと思うわ」
「え? でも、ジョーカル様がディグ様達を犯人確保のためにこちらにお呼びしたのでは……」
「……それがそもそも変なのよ。ジョーカルはどうやって異世界にいたディグ達の居場所を突き止めたのよ。異世界といったってそれなりの大きさはあるはずでしょう……もしかしたらディグ達を異世界に追いやったのはジョーカルなんじゃないの?」
「何のためにですか?」
「そりゃあ、王子のためによ。ディグを次の国王にって考えてた人は当時は相当多かったらしいから」
「でも、それだとディグ様達を呼び戻すこと自体おかしくありませんか? 国王……が御健在の時に」
フローレンスは『国王』と口にした時に少し唇を噛む。
シープはその様子に気づかないふりをして話を続けた。
「……だから、その子供も連れてきたんじゃないの? 二人を王子に協力させるための人質として。あの二人を味方にできれば、相当な戦力になるわよ。それに……」
「それに?」
「……国民全てに次期国王が王子であることを納得させるための花嫁にもできるわ。そのために呼んできた子供を女性に変えたんじゃないかしら……」
「じゃあ、ジョーカル様は、王子とディグ様達の子供を結婚させることで、王子の政権を安定させようと考えてるのですか?」
「たぶん、そうよ。あのメグミって子はそのために女の子にされたのよ。王子が馬鹿だってことは国民にとってもはや衆知の事実なんだから、王子が普通に次の王様になっても大きな支持は得られないわ」
「……でも、結婚相手が英雄と名高い二人の子供なら」
「そう。たいていの国民は王子夫妻を支持してくれるでしょうね」
「……なるほど、ずっと王子のために尽くしてきたジョーカル様なら考えそうな話ですね」
「そう思うでしょう?」
「でも、それじゃあ、シープ様の野望の達成が危ういですね」
「……別に」
「え? どうしてですか? 王子の性格からいってジョーカル様の意見を無視してまでシープ様を妃に選ぶ可能性は低そうですが……」
「だから、別にそれは構わないって言ってるの」
「な、なぜですか?」
フローレンスが理解不能とばかりに聞き返す。
「……あんたは、メグミって子をもう見た?」
「え? いえ、まだ……」
「本当は男だそうだけど、どこから見ても女の子にしか見えないのよ。それもすごく可愛いの……」
「そ、そうなんですか? まあ、いかにも女装した男性って感じだと花嫁にもらう王子が気の毒というか、見てみたいというか、その……無礼な話ですけど」
「……あの子の方がいいかなぁ、と思ってね」
「え?」
フローレンスの目が点になる。
「だから、私は王妃になれなくても、この国で大きな権力と財力を持てるなら構わないのよ」
「……まさか!?」
「メインターゲットを馬鹿王子から、未来の王妃様かもしれないあの子に変更しようかな〜なんて、ね」
シープはそう言うと、ペロッと舌なめずりをする。
「正直な話、あの子の方があたしの好みだし、それに未来の国王夫婦両方ともあたしの虜にしておいたら、あたしの未来はとんでもなく明るいわ」
「……シープ様……」
どこか遠くを見つめてうっとりするシープの、その正面ではフローレンスが眉間にしわを寄せて固まっていた。
第9話 おわり