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記憶のきみ
【青春 恋愛小説】

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記憶のきみ3-4

帰りの電車内。
瞬と灰慈はガラガラの車内で向かい合っていた。青空は逆方向なので一緒ではない。今頃は同じように電車に揺られているだろう。
「瞬」
『………あ?』
灰慈が真面目な顔をしている。
「お前さ…マジで悦乃ちゃんとなんも関わりなかったんか?」
どうしてそんなことを聞くのか。
『………わかんねぇ』
「悦乃ちゃん、お前のこと知ってそうだわ」
『……は?』
「悦乃ちゃんさ、いつもお前を深刻そうな顔で見てんだよ」
『……気のせいじゃないのか?』
「気のせいじゃねーよ……初めて会ったときも…今日も…」
『…………』
忘れかけている記憶。
彼女が誰なのかは、解決してはいなかった。
気のせいだったと思う自分。しかし、心のどこかで認めたくない自分。
「悦乃ちゃんに聞かないのか?」
『…………』
「お前はそれでええんか?聞かんと…」
そのとき電車は灰慈の降りる駅へと到着した。
「………じゃあな」
『………ああ』
扉が閉まり、瞬は再び電車に揺られ始めた。
『………』

複雑だった。

仮に、二人は以前、関わったことがあったかもしれない。
しかし、それがいい思い出だったかどうかなんてわからない。
もし俺が過去に彼女を傷つけたのなら、そりゃ俺のことを知っているかと聞かれて、知っていても答えはしないだろう。
灰慈が悦乃の視線に気付き、それでいて彼女は俺のことを知らないと言ったのだ。
きっと彼女にとって嫌な思い出だったんだ。
だから封印しておくべきことなのかもしれない。
だから……




俺は聞けないだろう。


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