エム-2
「ショックだよー」
そのニュースを見ながら美紗が呟く。手は止まったまま、テレビに釘付けだ。
「……あぁ、そっか。美紗、好きだもんな」
こくんと美紗は頷き、オレンジジュースを一口飲んで立ち上がる。
俺の目にはわからないのだが、最近太ったらしく、オムレツを少しとトーストを半分残してブレザーを着る。
「あら、美紗、もう行くの?」
母親がキッチンから顔を出しそのまま玄関へ向かう。靴箱の扉を開ける音が聞こえる事からきっと美紗のローファーを出してやってるんだろう。
「いってきまーす」
そう美紗の声がする。母親が「いってらっしゃーい」と言いながらドアを閉めた。
時計は7時半を指している。
目の前の朝食は無くなり、最後の一口残しておいたオレンジジュースを飲み干すと俺も美紗の後を追うように立ち上がった。
玄関で俺の靴を出している母親の後ろに立ち、入れ替わるようにして靴を履く。
「いってくる」
母親は笑って手を振る。
「いってらっしゃい。先生によろしくね」
先生は眼科医を指していて、俺は頷いて玄関を開けて外に出た。
俺を見送った後母親は父親を起こしにいくんだろう。
そして、一人になる。
滞りなく授業は終わり、あっという間に放課後。
自慢じゃないけれど、俺はそこそこ成績も良い。
んでもって友人も多いし、一端に恋人も居る。
放課後の教室はクラスの半分くらいの人数が各々好きなことをやっていた。
つまりそれくらいは帰宅部ってことになる。
俺は気の合う仲間と三人で談笑をしていた。
もうすぐ来る人物を待ちながら。
話が盛り上がって一段落した時、
「まーこーとっ」
後ろ側のドアが開いて彼女の百合が手を振りながら俺を呼んだ。
「おーう」
手を振り返すと彼女は走ってきて俺の側に立った。
クラスメイトは最早慣れたという風に気にも留めない。
それくらい俺と百合は仲が良い。
百合は黒髪を背中まで伸ばし綺麗に手入れされた髪は艶々している。
俺はその髪が百合の中で一番好きだった。
「今日は一緒に帰れる?」
百合の手には鞄があり、俺があげたキーホルダーが付いている。
俺は百合に拝むように手を合わせる。
昨日は確かに明日も一緒に帰る約束をしていたのだ。