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かつて純子かく語りき
【学園物 官能小説】

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かつてジュンかく語りき3-4

「……訳もなく、胸が騒ぐんです」
そのまま下唇を軽く噛まれる。酔いと火照りのせいで、ただ身体の求めるままになりそうになるのを堪えて、私はタキタに聞いた。
「妬いてンのか?」
その六文字を聞いた彼は、目をきょとんとさせてしばらくフリーズした。
そのカオが可っ笑しくて、私はついに噴き出してしまった。
「ダイジョブか?」
彼の目の前で手のひらを左右に振る。タキタは何度か目をしばたかせてから、「そっか」と一言つぶやいた。
「アタリ?」
にんまりとしながら私が言い返す。
「そう、みたいだ」
頭をわしわし掻きながら、彼は少し悔しそうな顔をした。そして、もう一口ビールを飲んでから、ごろんと仰向けに寝転がり、「あ」と声を上げた。
「何?」
同じように隣に横になる。
「今日は、満月だったんですね」
彼の視線の先を辿ると、カーテンの隙間から、まんまるいお月さまが浮かんでいるのが見えた。
「ホントだあ」
タキタが手を伸ばしてきて、月に見入る私の髪に手櫛を入れた。私はその心地よさに思わず喉を鳴らした。
「ジツは……さ」
私の脳裏に、昼間の映像がフラッシュバックする。言おうか言うマイか、しばらくとまどっていると、それを見透かしたように、タキタが「なあに」と問うた。
「私も。……ちょこっ、とな」
それ以上はコッ恥ずかしくて面と向かって言えなかったが、視界の片隅でタキタの目が丸くなっていくのはわかった。
「ウルサいっ!」
手足をばたつかせて、彼の視線から逃げようとしたが、そうはいかなかった。
「なぁるほど」
耳の赤くなる音が聞こえそうな私のロウバイをよそに、タキタは余裕綽々に笑ってから私のほっぺを軽くつねった。
「焼き餅、ですか」
きゅうと細められたタキタの瞳が、なんとも嬉しそうである。
くっそう。なンか負けた気がする。
「どっちだってイィじゃないか」
スナオに答えるのはシャクだったので、それには返事をせず、頬をつまむ指を乱暴に払いのけた。
「ごめん、ごめん」
タキタはすぐに謝ると、今度は逆に親指で私の頬を撫でた。
それがなんとも気持ちが良くて、つい口元がゆるんでしまう。撫でられた猫の気持ちというのは、こんな感じなんだろうか。ごろごろと喉を鳴らし、タキタの手に頬ずりをする。
「わかればヨィのだ」
仲直りの済んだのを確認したタキタは、仰向けに寝転がって月を見上げた。私も同じく床に頬杖をついて、影一つないそれを見やる。
しばらくそうしていると、タキタがぽつりと呟いた。
「なよ竹のかぐやは、あなたみたいな髪をしていたんでしょうか」
月見ながら私の髪を撫でているタキタの目は、すでにとろんとしている。
「ソイツは畏れ多いな。ミカドが懸想なさった女性だぞ」
すると、タキタはくつくつと笑って「じゃあ、僕が帝役をします」とのたまった。
こンの酔ッパラい。
私はため息をヒトツついてから、彼の見事にリンゴ色に染めあがったオデコをツンとつついた。すると、タキタは何の抵抗もなく、そのまま後ろにぱたんと倒れた。
「……月に、帰るのは……また、今度に」
すぐに規則正しい寝息が聞こえてくる。今このタイミングで、「月に帰りま〜す」なんて言ったら、彼はどんな夢を見るだろう。


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