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かつて純子かく語りき
【学園物 官能小説】

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かつてジュンかく語りき3-3

ふと視線を落としてみる。アスファルトに伸びる二つの影の頭は、隣のそれとさほど大差ない。思わず、ふうとため息が出た。
「……ジュン」
横から名前を呼ばれ、私は声だけで返事をした。
「何をぼうっと考えているんですか」
彼の方を見やると、眉根を寄せてフテクサレていた。どうやら、私の耳は彼の話を素通りしていたようだ。
「ごめん、ごめん」
ソレくらいでむくれるタキタがかわいくて、私はつい子どもをなだめるような口振りになってしまう。当人にとっては、これがイチバン遺憾だそうだが、仕方ないじゃないか。
彼はそっぽを向いたまま、こう切り出した。
「どうして、言ってくれなかったんですか?バイトのこと」
おや。お怒りの原因はそっちか。
「社会ベンキョに……な?」
まさか旅行費用のためとは言えない。ソンなこと言おうもんなら、タキタは「無理に工面して行くものじゃない」と怒って、計画自体を中止にしかねナイからだ。
「それならいいんですけど」
意外に早く身を引いた彼に、若干の違和感を覚えながら、私はスーパーの袋の片方を持った。
それから家までの数分間、私とタキタは黙りこくったままだった。


「ごちそうサマでした!」
タキタお手製ドレッシングでの冷スパをいただき、代わりに私が後片付けをする。皿洗いをテキパキと済ませ、卓上をさっと片付けた。
「よぉし、終了!」
風呂上がりのタキタのために、ビール&おつまみの準備なぞしたりして、気分はすっかり若奥様だ。
むふふ。
冷蔵庫の前でほくそ笑んでいると、後ろでパカンと無機質なドアが開く音がして、湿った空気がキッチン中に広がった。
「ただいまー」
タキタは風呂上がりに、いつもこう言う。
「オカエリ」
私も、いつもこう返す。
「向こうに準備できてるぞ」
私たちは、同じシャンプーの香りを漂わせながら、キッチンを後にした。
「あつ……」
と彼は一言だけ言って、エアコンのスイッチを入れた。
最近は暑いから、タキタは上半身に何も着ないことが多い。少しだけ……、目のヤリ場に困る。
だって、なんだか最近、オトコっぽくなった気がするんだもの。
「純子さん。呑も?」
右手でグラスを傾ける仕草をする彼に、私は努めて冷静を装った。
「私もビールにす……ぴゃっ!」
言い終わるや否や、冷えた缶ビールを頬にあてられ、思わず声を上げた。それを見たタキタは満足そうに笑って、私の頬にキスをした。
じんと冷えたそこを、熱くて、柔らかい唇がふわりと包む。そこからじわじわと何かが広がっていく気がして、なんだかくすぐったかった。
「ほれ、ジュン。乾杯」
缶と缶の不器用な音が立ち、私はゴクリと喉を鳴らした。喉を通る発泡が快い。
小半時が経っただろうか、すでに二人ともほわほわ状態で、タキタの白い肌はピンク色に染め上がっていた。
「今日ね」
彼はそう言って、おつまみの生ハムを器用に丸めて、口の中に放り込む。もぐもぐしながら話し始めた。
「いいなぁって、……思ったんですよ。僕ぁ、最近、僕と一緒にいるジュンしか見てなくってね?……今日、ほんっと久々に、他の誰かを意識しているあなたを見たんです」
そこまで言うと、私の目をじぃっと見つめた。
「この瞳が、僕以外の人をとらえるところを」
熱くなった頬に、タキタの冷えた指先が添えられた。
「ん?」
私のことなどお構いなしに、彼は続けた。
「その唇で、誰かに微笑むところを」
くいと顎を寄せられ、上唇をついばまれる。ぐるぐる回るアルコール成分に翻弄されながらも、私はなんとか考えをまとめようとした。
もしかして。
タキタのやつ。
「オマエ……」
何事か言おうとして開いた口は、彼に柔らかく飲み込まれてしまった。


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