バトンタッチ。-3
さっそく自己紹介をさせてもらった。
緊張からガタガタを膝が震えた。
武者震いだと自分に言い聞かせて黒板に名前を書く。
上村晴道。
汚く不恰好な白い線がキャンパスを走った。
何をその後伝えたのかは全く覚えていない。
でも確かに始まったんだ。
今日からこの場所で一つでも何かを伝えていきたい。
初日はひどく疲れ果てて、家に帰るとグッタリとベットに倒れかかり、すぐに寝息をたてていた。
何週間か過ぎて、だんだんと勝手がわかってきた。
担当生徒は強者ばかりだった。
中学三年生の二人。
脚を骨折した木村卓麻。
寡黙な男、田和祥兵。
二人は中学では先生に見捨てられてしまった不良。
もちろん最初は全くうまくいかなかった。
話しすら聞いてもらえなかった。
信頼関係が介在しない教育はやはり力がない。
二人は全くおれのことを信頼してなかったから。
打開策を考えた。
手紙も書いた。
面談もした。
しかし、関係に変化は全くといっていいくらい見られなかった。
それが突然ある日を境に、変化していったのだった。
ある日の授業終了時間の45分前。
おれは思い切って二人を塾の外へ連れ出した。
「ラーメンでも食いに行こう。」
二人を誘って半ば強引に近所の安いラーメン屋へ入った。
注文を済ませ、席で一息つく。
空気が重かった。
突然木村が口を開いた。
「おまえはカバみたいだから、ヒポな。」
呆気にとられた。
カバ扱いされたことなんてなかったから。
田和も
「ヒポな。」
と笑みを浮かべた。
初めて笑ってくれた。
それがうれしかった。
ラーメンをすすりながら、堰を切ったように二人は話し出した。
今まで押し込んでいた感情が滝のように流れだした。
それは全く他愛もないこと、学校の話し、部活の話し。
尽きなかった。
結局閉店時間になるまで、おれらは止まらなかった。
その後教室で室長に三人はきつく説教された。
ともあれ距離が縮まったことが、うれしくてうれしくてその夜は眠れなかった。