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この向こうの君へ
【片思い 恋愛小説】

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ハナツバキB-4

怒鳴られてようやく顔を上げて、開口一番言う筈だったセリフは『うるさい!』だった。
どうせ最後なら可愛くない女になってこんな辛い片思いなんか自分の手で終わらせてやる…
ミルクティーの魔力はまだ残っていた。
溶きほぐされた心は簡単には戻らないらしい。
『うるさい!』
頭で思った通りの言葉は出てこなかった。
「辞めないで…」
代わりに飛び出したのは隠し続けた本心。
「側にいて」
一度姿を見せたらもう溢れて止まらない。
「好きだから」
夕立のような大きな滴がいくつかアスファルトに落ちた。
ミルクティーのせいじゃない。ちくんといるからだ。
柔らかくて温かい空気があたしを溶かす。
ずっと一緒にいたいよ…



泣いてる。
それも、俺の事で。
与えられたのはずっと待ち望んだ言葉。何年も、ずっと…
この子にとっての大切な存在になりたかった。
「…何か言って」
「え?」
「好きって言ったじゃん、何でもいいから返事してよ!」
あぁ、そうだった。
一人で幸せ噛みしめてた。
この6年間男の事で泣いてるのは何度も見てきたけど、今は俺の為の涙…
「椿ちゃん」
「…」
色んな言葉が浮かんだ。好きだとかありがとうとか月並みな言葉から歯の浮く様なセリフまで。
だけど何を言っても足らない気がして、
「結婚しよっか」
返事も告白もすっ飛ばした。言葉じゃ伝えられないくらい愛おしかった。



今なんて?
結婚って聞こえたような…、告白の返事を催促したらプロポーズされた?????
「ええぇっ!?」
動揺100%のあたしの前にいるのは大好きな人。
「どうする?」
「だって、うちら友達…」
「でも好きって言った」
「うん、言った」
「俺も好き」
「…どうも」
「じゃあ結婚しよ」
「そこおかしいって!普通は付き合おうとか―」
「抱き締めてもいい?」
「へっ!?」
返事をするより先に目の前にはちくんの胸があった。
ずっと見守ってくれた腕は想像以上に安心できた。
「ちくん」
「ん?」
「心音激しすぎ」
耳元で聞こえるそれは、人の倍はありそうだ。
「緊張してるもん」
背中に回った手にキュッと力が入る。
落ち着く気配のまるでないドキドキが、こんなあたしをどれだけ好いてくれてるかを代弁してるようだった。
結婚か…
「いいかもね」
そう言ってあたしも腕に力を入れた。


今はまだ、手を離していつも通りの別れ方をするんだね。
でも2人の間から『じゃあね』がなくなる毎日は、もうすぐそこまで来てる。


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