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この向こうの君へ
【片思い 恋愛小説】

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目の前の君へ-4

「ごめんなさいっ、あたし、こんなんで…っ」
広い胸はそんなあたしを拒まず、大きな腕は包み込んでくれる。
「僕が子供なんです」
「…?」
「ずっと拗ねてました、僕じゃ駄目なんだろうなって。だから、そんな風に言ってもらえて…」
今度はその腕にぎゅうっと力が入った。
「嬉しかったし安心した。ありがとう、それとごめん」
言葉も行動もいつもと違う。腫れ物を触るようなよそよそしさは消えて、安心したという言葉をそのまま表しているよう。
耕平君も不安だったんだね。あたしは自分の事しか考えてなかったから気付かなかった。
「それにすずさんは自分を否定するけど、僕は、好きだから…」
「…」
気付いたら恋人同士みたいな曖昧な始まり方だったから、初めて言われたセリフに言いようのない安らぎを覚えた。
「僕のせいですずさんが悪目立ちしたり行きたい店に入れなかったりするのが申し訳なくて、このまま終わった方がすずさんの為になるんじゃないかと思って」
同じ考え。これはきっと間違った思いやりだ。遠慮よりも大事なのはちゃんと話す事。そうしていれば、あたし達なら今頃不安も不満もとっくに解決していた筈だ。

「雰囲気とか場所じゃなくて、同じ時間を楽しみたかったの」
ずっと耕平君に伝えたかった事だ。
久々にベランダに漂う甘くて深い香り。目の前にいる大切な人。
少し照れた風に笑う彼の顔はやっぱり怖いけどあたしにしか見えない優しさが溢れてる。
その顔が好きなのに。
写真はまだ撮らせて貰えない。携帯は常に写真モードにしてある。
この小さな画面が君の笑顔でいっぱいになる時を楽しみにしてるよ。


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