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この向こうの君へ
【片思い 恋愛小説】

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ハナツバキA-4

「昼には服乾くから、それまでそのままでいてね」
「…どうもありがとうございます」
恋愛対象じゃないのは分かってたけど、へこみすぎて梅干しのすっぱさも感じないよ。
「あたしもやけ酒飲んで暴れたかったなー」
「暴れれば良かったじゃん」
「店に入るなりガブガブ飲んでくだ巻いてる人を見たらそんな気も失せるよ」
どうやら俺の事らしく、ちらちら目線を向けては何かを思い出したように笑う。
「どうもすみませんねぇ、悪酔いしてゲロ吐いてその上洗濯までさせちゃって」
椿ちゃんが辛そうなのが嫌だったからだよ。
言えないけどさ。
結局醜態さらして迷惑かけてる俺はアホか。
「違うよ、感謝してるの」
「は?」
「自然消滅を狙う男なんかクソだーって叫んでたの、覚えてない?」
「全然」
「あたしの代わりにキレてくれたのがすごい嬉しかった。ありがとう」
「……別に」
予想外のお礼に悪い気はしなかったけど、密かに禁酒を誓った。
それと、ずっと言いたい事があった。
「太一でいいよ」
「何が?」
「呼び方」
草野君なんて、よそよそしくて嫌だったんだ。
「太一君?」
「うん」
「長い」
「どこが」
「太一君、たいちくん、たい…ちくん、ちくん!」
「は!?」
「ちくんって良くない?呼びやすいし」
拒否権などない。その瞬間俺はちくんになった。


「じゃあね」
夏の日差しですぐに服は乾いた。ありがたいやら恨めしいやら…
「うん、また泊まりにおいで」
明るい口調には即答できなかった。
もちろん冗談だというのは分かってる。でも、
「俺が言うのもなんだけど、彼氏以外の男にそーゆう事言うなよ」
「…心配?」
「椿ちゃんは男を見る目が無さそうだから!」
言い逃げ。
文句は背中で聞いた。
確信したんだ。
俺達は友達。
親友にはなれるかもしれないけどそれ以上は無理。これっぽっちも男だと思われていない。
この程度の男友達なら、あの子にはいくらでもいるだろう。

それからの俺は見守る役に徹した。
相変わらず男を見る目がない椿ちゃんを事ある毎に励ます自分が損してるとは思わない。こんな役でもかけがえのない存在になりたかった。

4年後、椿ちゃんは新入社員に恋をした。
見た目は極悪人だがとびきり性格のいい男。中身から人を好きになったのは初めてだと思う。
これが上手くいってもいかなくても、椿ちゃんの片思いが終わる時に俺の役目も終わる気がした。
保護者みたいな心境だったのかな。
自分でちゃんとした男を見つけられるなら、もう俺が見守る必要はないよね。


2年後、その恋は終わった。
俺の役目も、終わり。
「じゃあね」
いつも通りの別れ。
これでいい。
何となく決めていた事がある。同じ会社にいると忘れられないなって。

上司に辞めると伝えたのは翌日。

7年目の夏が来る。


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