投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

この向こうの君へ
【片思い 恋愛小説】

この向こうの君への最初へ この向こうの君へ 14 この向こうの君へ 16 この向こうの君への最後へ

ハナツバキA-2

友達はとにかく友達で、仲のいい友達を好きになるにはそれなりの覚悟が必要なんだと分かった。
「好きな人ができた」
告げられたのはゴールデンウィークが終わり、休みボケも退いたある日。
相手は友達の友達で、同い年の大学生。顔が俳優のナントカに似てるだとか背がどうだ服装が髪型が声が―――
『知るかっ!!』
って怒鳴れたらどんなに楽だろう。
『俺はお前が好きなんだよ!』
って振り向き様に言ったら、人によっては格好いいんだろうな…。
失いたくなくて告白もできない。気持ちを伝えてギクシャクするくらいなら恋愛相談を受けて傷つく方がまだマシ。
彼氏ができたと嬉しそうに報告されたのはそれからすぐだった。

8月。
約2ヶ月、彼氏の愚痴をほぼ毎日聞かされた。
「彼氏がバイトばっかで会えない」
「着歴残ってるはずなのにメールしかくれない」
「て言うかメールすら来ない」
その度、長続きはしないと思った。それが俺の望みでもあるから特に心配もしてなかったけど。

お盆休みに入る前日は一日かけて社内の大掃除をするのが恒例行事。
朝から自分の持ち場を片付けて、手が空いたら手伝いに行く。俺が向かわされたのは倉庫。出荷待ちの完成品が置かれているそこは事務所の管轄。心の中でガッツポーズをした。椿ちゃんと同じ場所だ。
スポットクーラーしかないほこりだらけの倉庫。いつもならその暑さと空気の悪さで敬遠するけど、今は椿ちゃんと2人だけの夢の空間。
「草野君さあ」
「えっ?」
いきなり、しかも背を向けられたまま話しかけられ、心の中を読まれたんじゃないかという有り得ない焦りを抱いた。
「今日会社のみんなで飲み会だよね?」
「寂しい独り身だけで盛り上がろうと思って」
敢えて独り身を強調したのはイヤミとアピールのつもり。
「あたしも行く」
相変わらず背を向けたままだけど、口調の強さと直後の鼻をすする音でそれが何を意味するかは分かった。
同時に、早く別れる事を望んだ自分が恥ずかしくなった。
好きな子が傷ついて泣くのを待ってたんだ…
黙ってその場から離れて工場内に向かい、自販機で目的のモノを買ってすぐに椿ちゃんの元へ戻った。
「6時に会社集合ね」
買ったのはロイヤルミルクティー。差し出してそう伝えて、また黙々と作業を始めた。
女の子に泣かれた時の対処法なんて知らない。ドラマのように付き合う前から抱き締めるような大胆な真似はできないから、そっとしておくしかないと思った。
泣き声はスポットクーラーの音がかき消してくれる。俺にできるのは、この程度。
男友達って、意外と役立たずだ。

飲み会であおるように飲んだのを椿ちゃんではなく俺。
何もしてあげられない自分が嫌だったし、みんなの前で明るく振る舞う椿ちゃんがいじらしいのと痛々しいので、飲めない体に無理やりアルコールを流し込んだ。
この時の事は殆ど記憶にない。
心の中で何度も椿ちゃんに謝ったのと、周りから聞こえた『大丈夫?』の声を微かに覚えてる。ものすごく気分が悪くて途中から完璧寝ていた。


この向こうの君への最初へ この向こうの君へ 14 この向こうの君へ 16 この向こうの君への最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前