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この向こうの君へ
【片思い 恋愛小説】

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ハナツバキA-1

初めてあの子に会ったのは20歳の10月、就職試験の日。
自分の順番が来るのを長椅子に腰掛けて待っていたら、面接会場から女の子の笑い声が聞こえた。
「あはははっ」
面接中とは思えない明るさ。
その後、部屋から出てきたその子はスーツ姿の俺を見て
「お先に」
と言って帰って行った。
返事ができなかった。
女の子に見とれるなんて初めてだった。

11月。
採用通知を受け取っても素直に喜べなかった。
(あの子は受かったかな)
気になって仕方ない。隣には彼女がいるというのに。

12月。
あの子に会いたいと思ってしまった。気持ちだけ二股をかけているような妙な罪悪感。彼女と手を繋いでもキスをしても、後ろめたさが残るだけ。

3月。
彼女と映画を観た後ランチを食べていて起きた、すごい確率の偶然。
女の子数人のグループが俺達のテーブルに近付いた時、その中の1人が「あ」と言った。
聞き覚えのある声。
慌てて顔を上げると、間違いなくあの子だった。
「面接にいた?」
「あ、うん。一応受かってたけど…」
「知ってる、新規採用なんだよね。あたし中途採用だから10月から働いてるんだよ」
「えっ、そうなの?」
「うん、よろしく」
あの一瞬と変わらない笑顔。
ドキドキした。
嬉しかった。
4月から一緒に働ける事、自分を覚えていてくれた事。
「椿、彼女の前で馴れ馴れしくしちゃ駄目って」
横にいた友達に注意されてまた「あ」と言う。
「そうだね。ごめん、邪魔して」
喉まで出かけたセリフを慌てて飲み込んだ。
違うと言い訳しようとした相手は彼女ではなく“椿”と呼ばれたその子。
彼女の顔が見れなかった。

「卒業しても一緒にいようって言ったの太一じゃん!」
泣く彼女にかけてあげる言葉はない。
ただ意味のないごめんを繰り返すばかり。
「嘘つき!!」
それが彼女から貰った最後の言葉。
再会したその日の夜の事だった。

4月。
一緒に働いて分かった事。
吉田椿ちゃん、20歳。
人に媚びない嫌みのない明るい性格。
口では適当な事を言っていても仕事で手を抜かない真面目な子。
そして入社1ヶ月経ってもまともに会話をしていない意外なほどの自分の消極性。

5月。
椿ちゃんが叱られていた。理由は分からないけどへこんでるのは分かったから、1人事務所で残業する椿ちゃんにミルクティーを差し出した。
「くれるの?」
殆ど口をきいた事ない同僚から突然渡された安いプレゼントは彼女を混乱させたらしい。
「大変そうだから」
「どうも」
「どういたしまして」
一口含んで、少しだけ笑ってくれた。
「何時までやるの?」
「終わるまで。草野君は今からデート?」
「相手いない」
「えっ、前一緒にいた子は?」
「別れたよ」
大した理由じゃないけどねと、聞かれてもいない事を付け加えた。
社内にお互い以外同い年がいないせいもあってその日からよく話すようになった。
「前にデート中の男友達に声かけたら彼女にめちゃくちゃ疑われて、それが原因でその2人別れちゃったのね。だから彼女持ちとはなるべく距離を置こうと思って」
それが俺と話さなかった理由。
この時はただの同僚から友達になれた喜びでいっぱいだった。


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