金木犀の誘惑-14
「お見合いは、部長と初めて新宿でお酒をご一緒した、翌日の土曜日だったんです…。」
「叔母は私の母親の妹に当たる人で、父が残した負債を肩代わりして貰ったり、母が亡くなった時も、その一切の費用をみてくれたりで、正直、お見合い自体に気乗りしてはいなかったんですけど、色々想うと無碍にできなくて…」
「そうか…丁度2ヶ月」
「何度かデートをしたのだろうけど、良さそうな人なの?だったら何で僕と…。」
「いぇ、一度お会いしたきりなんです…。」
「えっ?一度きり?」
「それじゃ、相手の事は何も判らないだろう?」
「一度離婚された方で、年齢は部長と同じ42歳。まだ幼い女のお子さんがいて、先代が遺された会社の跡目を引き継いだ御曹司だって事ははっきりしてるんです…。」
「だからって結婚に踏み切るには早くないかい?」
「誤解して欲しくないんだけど、君の幸福に邪魔をするつもりはないし、君と関係を持ちながらも、君の幸福を願いたいから聞くけど!それだけで相手の何が判るのか、僕には理解出来ないよ…」
「部長がそう思われるのは自然です、そして素直に嬉しいです!」
「父が遺した負債を、病弱だった母一人で返済するのは無理だと、叔母も一緒に肩代わりする事になり、この自宅を抵当に銀行から融資を受け、当時まだOLだった叔母は周囲が恋愛や結婚に夢を追っている時に脇目も振らず、毎月の返済の為に昼夜働き詰めで、大事な青春時代を棒に振ったどころか、自分の婚期を逃してまで完済してくれて、その代わりに、実姉である亡き母が、私が嫁いだ28歳の時に、この家の権利を既に叔母の所有に譲渡していたんです。
ですから私が離婚をし、母が亡くなった以降、私の生まれ育った家でありながら、叔母の家を無償で借り、ただ毎月の光熱費や電話代を負担しているに過ぎない生活だったんです、その叔母が今残された未来を共にしても良いと思える男性に出会い、そのお相手の事業が窮地に立たされた今、私に将来安泰な再婚相手を紹介するから、この自宅を取り壊し、有料パーキングの開発をする企業に売却し、お相手の事業資金として補填したいと言うのが本音なんです…。」
「だからって君が…・・・」
「いぇ、良いんです!」
「私の問題であり、叔母の問題でもあるんです、失踪したままの父や、亡くなった母も含め、私たち家族の為に苦労をさせてしまった叔母が、人生の後半で幸福を掴もうとしているのに、今までお世話になった分、報いる事が出来れば…。」