投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

金木犀の誘惑
【その他 官能小説】

金木犀の誘惑の最初へ 金木犀の誘惑 0 金木犀の誘惑 2 金木犀の誘惑の最後へ

金木犀の誘惑-1

[サンセットオレンジ]

Gウィークの喧騒が静まり返った東京都下。
初夏を感じさせる昼間の陽射しは成りを潜め、
そよぐ風がベランダに面したレースのカーテンを揺らし、沈み行くサンセットオレンジの陽射しが部屋一面に入り込むと、飲みかけのビールを琥珀色に輝かせ、大樹の全身をセピア色の写真のように染め上げると、走馬灯の様にフラッシュバックする郷愁に浸りながら、幻惑される酔いに身を任せていた…。


結婚して16年。
同い年の妻と、無事進学校の高校受験に合格した一人息子との三人家族。

42歳になった大樹は、勤勉な仕事振りと功績が評価され、同期を尻目に部長職へと昇進し、己のサラリーマン人生の第二章を全うすべく、常務より命ぜられた東京本社への転属を快諾し、郷里の新潟に妻と一人息子を残し、単身での都内生活をスタートさせていた。


呆然とオレンジ色に射し込める夕陽に染められながら、懐かしい80年代後期の匂いが大樹の鼻孔をくすぐり、20年振りに訪れて見る東京の夕陽の優しさは、昭和の時代に輝いていた、穏やかな東京の夕陽と何一つ変わらぬ事を肌で感じ、
ほろ苦い青春の追憶や、郷里に残した妻との若かリし日を振り返りながら、感慨深い休日の終わりを独り静かに見送っていた…。


[回想録]

大学のキャンパスライフを都内で送った大樹。
スポーツで鍛えた柔軟でシャープな肉体はそのままに、大手総合商社に就職し、繊維貿易の部署に配属され、国内の織物産地へ出向き、海外有名デザイナーへ日本の機織り物を紹介し、海外市場の開拓から輸出入業務、又それらの海外拠点をイタリア、ドイツ、フランスなどに設け、欧州アパレル業界との業務提携から、無名なれど才能溢れる若手デザイナーを発掘し、日本企業へ誘致斡旋する他、人件費が安く、丁寧な仕事ぶりに定評のあるアジア市場に生産ラインを構築。そんな最中に同い年の悦子と出会い、恋愛の末に25歳で結婚。一児の男子を授かり、怒涛の如く走り続けた20年だった。


[恵子]

本社勤務にも慣れた5月下旬。来シーズンに向け、海外のクライアント向けに、展示会のテキスタイルサンプルの画像チェックをしていた週末の夜。資料室で煩雑な整理に当たっていた恵子が、一区切りを付けて大樹の居る部署に顔を見せた…。

「部長!」
「まだ続けられます?」


聴き覚えのある美声を背後に浴び、大樹がその声の方向に振り向くと、軽く微笑みながら歩み寄る恵子の姿が、大樹の重くなった瞼を大きく見開かせていた。


艶やかな黒いロングヘアーは綺麗に内巻きにカールされ、スラリとした手足を延ばしながら近ずく姿は、既に二人以外誰もいないオフィスに輝きを放っていた。


「総務課の大塚です」
「明かりが見えたので、お茶でもと思って…」


「君かぁ?」


「新潟では電話だけのお付き合いだったね!」


「君の美声は新潟支店でも評判が良かったよ…」


仄かに恵子の頬が赤らむと、デスクに差し出された珈琲を受け取った大樹は、満面の笑顔を零していた。


金木犀の誘惑の最初へ 金木犀の誘惑 0 金木犀の誘惑 2 金木犀の誘惑の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前