凌辱-4
土曜日。
全国的に真夏日を記録する暑い中、加奈は待ち合わせの時間よりもだいぶ早く指定された正英社ビルに向かっていた。
服装は普段はあまり着ないお出かけ用の白いワンピースに熱中症予防に花のついた白いストローハット。財布やスマホを入れたポーチを肩から襷のようにかけている。一見するとどこかの良家のお嬢様のような清純な雰囲気を醸し出した加奈の姿は、すれ違う人が思わず見惚れてしまうほどだ。
前の日も今日のことを考えてしまいよく眠れなかった。ライブチャットも珍しく休み早めに眠ろうとしたのだが、なかなか寝付けず結局3回も自慰行為をしてしまった。
(・・・ヤバい。ドキドキが全然おさまらない。何回オナニーしても心も身体も落ち着かない。試合の前でもこんなに緊張したことないのに)
しょぼしょぼと眼をこすりながら一歩一歩歩いていく。不安は当然あった。
1番の不安要素はこれまでスタンプで顔を隠しながら配信していた事だ。それが今日、たった1人とはいえ視聴者の前に初めて素顔を晒すのである。容姿に自信がない訳ではないが、モデル級かと言われるとそこまでの自負はない。会っていきなり断られる可能性も十分にあり得る。
それでも今更引き返すこともしたくなかった。どんなに困難やプレッシャーがあろうが加奈は挑戦し、そして成功を納めてきたからだ。たまに失敗する時もあったが。
不安と少しばかりの期待が入り混じった感情を抱えながら、加奈は正英社ビルの前に到着した。
扉を開けて中に入る。土曜日のせいか誰もいない受付に、社内に御用の方はこちら、と書かれた紙が貼ってある固定電話が置いてあった。心臓をドキドキさせながら指定された社内番号を押した。数コールの後、
「はい、編集部」
男性の声が受話器から聞こえた。
加奈はスゥーッと深呼吸してから、
「あの、私モデルの面接に来ましたカナデです。今日こちらに来るように言われたのですが・・・」
数秒の沈黙、そして
「カナデちゃん!待ってたよ。すぐそっちに行くね」
興奮した声でそう言われ電話が切られた。それからすぐ隣のエレベーターが動く音が聞こえた。エレベーターが降りてくる。その間、加奈の心臓はドラムを思いっきり叩いてるかのようにドクンドクンと脈打っていた。
チンと甲高い音がしてエレベーターの扉が開く。中から出てきたのは30代前半くらいの白いTシャツの上にサマージャケットを羽織った爽やかな男だった。
「やぁカナデちゃんだね。初めまして、メロンティーン編集部の戸塚一也です。カズヤの方がわかりやすいかな?」
そう言って懐から名刺を取り出すとサッと加奈に差し出す。初めて貰う名刺に加奈はどうすればいいかわからなかったが、とりあえず受け取りそのままポーチにしまった。
「は、はじめまして!わ、私、速水加奈です!ききき今日は、よ、よろしくお願いします!」
緊張のあまり言葉を噛みながら挨拶する加奈。それを見たカズヤは、
「ハハハ、そんなに緊張しなくていいんだよ。うん、加奈ちゃんね。よろしく。・・・ここで立ち話も何だし、上で話そうか」
そう言うとカズヤは加奈の腰にさりげなく手を回し、エレベーターへと案内するのだった。慣れた動作と屈託のない微笑みに女慣れした様子を感じながらも加奈は素直に従った。
(良かった。怖そうな人かもって思ったけど全然そんなことなかったわ。雑誌の編集ってもっと汚いイメージだったけど、カズヤさんは清潔感もあるし香水も上品な感じだし、おまけにすごいイケメン!)