パートナーシップ-8
ジョギングを終え事務所に戻ると、すっかりビジネスウェアに着替えた3人は社長室で商談を始める。
「では、もう一刻も早く製造を始めたい状況ですよね?」
美羽はフェミニンマインドのこの切迫した状況を理解しているようだった。
「ええ、身勝手なお願いではあるんですが…」
「私が乗り気なんですから、身勝手じゃありませんよ。パートナーシップを結ぼうとしているフェミニンマインド社の成功は我々にもいい事ですから。御社と協力してどんなウェアが出来るか楽しみで仕方ないけど、今はフェミニンマインドさんのトラブルを乗り越える事が最優先です。現在の工場の稼働状況を今纏めさせてますので少しお待ちを。」
「すみません…」
暗闇から差し込んだ一縷の光が少しずつ強く都姫を照らして来た。まるで草原に立ち、夜明けを待つ気分だ。美羽と言う朝日が夜明けは必ず来ると言う事を示してくれそうな、そんな希望が持てた。
そして数分後、美羽に内線が入り都姫に見せた笑顔が都姫にとって夜明けとなる。
「都姫さん、準備は整いました。資材を準備出来次第、製造に取り掛かれるますよ!」
その言葉に昨日の夕方からずっと抱えていた緊張や不安が都姫の中からスッと消えた。
「あ…、ありがとうございます!」
必死に笑顔を取り繕うとしたが涙が我慢出来ない。都姫は顔を手で覆い泣き崩れた。
「ほら、泣いてる場合じゃないですよ!これからが勝負です。しっかりとリーダーシップを発揮しなきゃですよ?」
美羽は都姫の前でしゃがんでそっと肩に手を置いた。
「は、はい…。ありがとう、ありがとう、美羽さん…」
涙を拭い、美羽に支えられて立ち上がる都姫は、まるで美羽が昔からの友人で一緒にいて物凄く落ち着く存在に感じた。それは美羽も同じだった。2人が同時に思った事は、2人で開発したウェアでまた一緒にジョギングしたりトレーニングしたい、だった。これから公私共々深い絆で結ばれる2人の出会いの日となった。そしてそのきっかけをくれたのが鉄平。都姫はこの瞬間から鉄平に対する見る目が変わる…、と言うかむしろ、鉄平に対する自分の素直な気持ちに気付いた。
「じゃあ何かあったら遠慮なく電話下さいね、都姫さん!」
「はい、ありがとうございます!ホント、これからもよろしくお願いします。」
「こちらこそ!都姫さん、鉄平君、気をつけて!」
「はーい!じゃあまたヤリに来ますね!」
「ンフ、是非ヤリに来てね、トレーニング。」
車で帰って行く2人に手を振り見送った美羽。
「なーんかあの2人、今からヤッちゃいそ♪こんな大きな危機を救ってくれた男に、女としてグラグラ来ちゃうよねー!ンフフ♪」
次に会った時、どうだったか聞いてみようと思った美羽だが、都姫とのこれからして行く仕事に、ようやく自分のやりたい事を見つけたような気がした。