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パルティータ
【SM 官能小説】

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パルティータ(後編)-5

…………

ネットのオークションで女は自分を売った。三か月の間だけ誰かに買われる………まるで娼婦のような行為はおそらく素直な、ありのままの自分の姿だと女は思った。心と体が無防備な状態におかれ、誰かの所有物になる。そして、心も体も買主に縛られる、そんな甘美で無防備な安心感。それが五十歳の女の心と体の欲求なのだ……女はそう思いながら、バーで会った男が記したURLの画面に与えられたパスワードを入力した。
サイトに自分のプロフィールを書き込んでいく。十歳ほど若いときの写真を添付する。別人のような女の顔がオークションのサイトに掲載された。自分がほんとうに売れるのか、微かな不安があったが、一週間後、オークションは成立し、誰かに自分が買われたことが示された。その相手が誰なのかはわからない。
重たい雨は夜中から降りはじめたのか、カーテンを開けると街の風景は濡れた驟雨に翳っていた。誰かに買われて、誰かのものになるという気持ちが女の心を変化させていた。窓の外の黎明の光、部屋に染み入っている明暗、そしてテーブルの上のキャンドルの灯りは、女の肉体と心の安堵を薄らと照らし出していた。


「オークションでわたくしが買った方ですね……」
 古い邸宅の部屋の扉をあけたとき、そこに立っていたひとりの老人が女に言った。
艶々とした光沢のある白髪、皺が刻まれた額、鼻筋の高い顔に黒縁の眼鏡が光っている。そのレンズの中で神経質そうな眼孔を窪ませた老人は着物を半脱ぎにし、痩せた首筋を露わにしていた。皮膚は渇いた粉をまぶしたように病的なほど白く、老いを通り過ぎた屍(しかばね)の亡霊のような姿をしていた。

何も身に纏うことなく老人の前に立たされた女は、深々とソファに腰を降ろした老人にまるで品定めをされるように視線を這わせられていた。そのねっとりとした時間は、まるで女の心と肉体の皮を淫靡に剥がされるような感覚を女に与えた。
「名前と年齢を言ってください」と老人は静かに言った。
はっと自分に気づかされるような美しい声だった。まさかそんな声が老人の唇から洩れるとは思ってもいなかった。
彼女は微かな戸惑い感じながら言った。「レイコです……年齢は四十歳です」と彼女は自分を偽った。
 老人はひと呼吸おいて傍のテーブルから琥珀色の液体が入ったワイングラスを手に取ると液体をひと口飲み、穏やかな笑みを浮かべながら言った。
「違いますね。嘘をついてはいけません。あなたの名前は………、年齢は今年、五十歳……」
 女は自分が放った偽りの恥ずかしさに火照りを感じ、老人の美しい声を避けようとした。老人はソファからゆっくり立ち上がると彼女の周りをゆっくりと立ちまわった。
「いずれにしても契約違反だということでございましょうか。名前も年齢も偽ってあなたはわたくしに買われたのですから。そのためにペナルティがあなたに架せられます」

 老人は全体が鏡になった壁の前に女を立たせた。
彼女の全身の裸体が目の前の鏡に映し出される。明るすぎるほどの壁灯の光は残酷にも五十歳の女の隅々の肌の毛穴まで滲み入り、心と体の嘘を剥ぎ取り、恥辱に晒した。

「わたくしは鏡に映ったあなたを遠い昔から知っているような気がします。それはあくまで鏡に映ったあなたです。そして鏡の中のあなたは、きっとわたくしのことを思い出すことになるのです」
 不思議な声だった。よく透る美しい響きをもったその声は、彼の言葉をあたかも真実のように語った。でも女はこの老人に心あたりはなかったが、堅く閉ざされた記憶の中で何かがじっと息を潜めていた。
「こうしてわたくしがあなたに話しかけられるのは、あなたがわたくしに買われ、わたくしのものになり、こういう姿で鏡の中にあなたの存在を露わにしたからなのです。わたくしにはあなたという女性がよく見えるような気がします。心も身体も。女性の心と肉体は歳を重ねるごとに熟し、膿んでいきます。そしてあなたの膿んだ心と肉体はすでにわたくしに語り始めています。あなたの中にあるストーリーを」
そう言って老人は自らの着物をゆっくりと脱ぐと、陰気な黄土色に渇いた胸肌を晒した。肋骨と肋骨が浮き上がった痩せた身体には、まるですべての水分が枯れ果てたように茫漠とした皮膚が広がり、皺枯れた皮膚や関節から今にも骨が爛れてきそうだった。
視線を弛(ゆる)ませた老人は、淫靡な笑みを浮かべながら下半身に纏った細い紐のような褌(ふんどし)をおもむろに取り去った。痩せて肉が削がれたような太腿のあいだに、煤ぼけ、深い皺が刻まれた黒々とした肉塊が淡い灯りのなか浮かぶ。その肉塊は、彼女を汚すには十分に醜悪過ぎるものだった。

「わたくしの前で跪いてください」と老人は言った。
女はその声に操られるように裸の老人の前に跪いた。
老人は女を見下げるように彼女の髪を撫で、下半身の醜いものを女の鼻先に突き出した。睾丸を包んだ黒い陰嚢が淫靡に垂れ下がり、醜い肉塊の幹は死んだ幼虫のように萎び、透けた包皮が皺を刻み、蒼い血管が微かに浮き出ている。
「なめてください。わたくしが満足するまで舐め続けてください。まさかその歳になって男性のものを口で癒すことができないことはありませんね」と言いながら老人は穏やかな笑みを見せた。


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