THE BLACK BOX-2
朝食をとりゆっくりと談笑する3人だが、若菜の頭の中ではある一つの事でいっぱいだった。石山からは3人とも今日はゆっくり休めとの指示があったが、西進不動産の事は勿論だが、他に確かめたいことがありそんな気分ではなかった。昔、ある時に引っかかっていた事に対する答えが見つかりそうだ。その真偽を確かめる為、どうしても警視庁本部庁舎に行かなければならなかったからだ。しかし自分が休まないと華英と白澤もうんとは言わないだろう。そう考えた若菜は表向きは自宅療養と言う事にして、単独で警視庁に行くつもりでいた。SPにはその事を伝えている。
警察からの迎えが来て、3人はそれぞれの自宅に帰る。白澤を降ろし、華英を降ろすと、車は若菜の自宅には向かわず常磐道に乗り霞ヶ関に向かう。その間、若菜はずっとある事を頭の中で整理していた。まだ推測の段階だ。仮説を立て自分の中で絡まった紐を解いているのであった。
1時間半程で警視庁本部庁舎に着いた。登庁する事は誰にも言って居なかった為、当然出迎えなどはない。正面玄関から堂々と入って来た若菜を殆どの署員が2度見して驚いた。
「何も言わないで来るから、みんな驚いてるじゃないですか。」
SPの中森拓郎が苦笑いしながら言った。
「違うわよ。ボブヘアーにしてイメチェンしたわたしが美しすぎて、そして似合い過ぎて目を奪われてるのよっ♪アハっ♪」
周囲の視線など全く気にしない若菜は笑った。
「確かに似合ってますけどね!」
「でしょ?抱きたくなったぁ?」
「ハハハ、ちょっと。」
「思い切りヤリたいくせしてー。」
「ハハハ、バレました?」
「うん!まぁヤラせないけどね!」
「知ってます♪」
中森は若菜の扱いに慣れてしまった。今まで何度上原家で手料理をご馳走して貰ったか分からない。しっかりと家族サービスしろと言って休みもくれる。絆は強い。若菜にとっても1番信頼できるSPのうちの1人だ。そんな会話をしながらエレベーターに乗り17階にある副総監室に向かう。エレベーターを降りると警備員がいるが、彼らも若菜の顔見知りだ。本庁に若菜がいる事には驚いたような顔をしたが、立ち止めする事なく敬礼してそのまま通す。
若菜は一連の事件のみならず、田口徹事件、いやそれよりもずっとずっと前の日本警察の歴史に関わる重大な案件に対する大きな興味と、警察の負の歴史に足を踏み入れようとしている大きな重圧をその体に背負い総監室へと向かうのであった。