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ヒジリ
【その他 官能小説】

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ヒジリ-9

「俺の家はさ、ずっと昔から霊媒とか、呪術を生業にしてきたんだ。」

―霊媒?呪術?―

どちらもその言葉自体を耳にした事はあったが、それはてっきりブラウン管の中のみに存在する物だと信じていた。
「そんな家系に倣って、俺にも少しは心得がある。そんで…。」
『それで?』
あたしは時田の言葉の先を促した。
「お前に巣くう魔の者から、お前を助けたい。」

―…魔の者?―

あたしは自分の耳を疑った。
だがその疑いはすぐに確信へと変わり、そんなあたしの頭に浮かんだのはあの“声”の事だった。
「前々から気になっていた、お前にはなにか善くない影があるって。」
『心当たりは…あるかも知れない。』
あたしはうつむいたまま言った。
「で、昨日確信したんだ。お前には、淫魔が憑いてる。」

―淫魔?―

初めて耳にする言葉だったが、あたしはなんとなくそれがどんなものかを理解した。
「淫魔ってのは元々実体を持ち、男を誘惑して快感にのめり込ませ、そして極限まで堕落させる悪魔なんだ。けど霊的な物が極めて少なくなった現代、悪魔達は存在する形を変え始めた。」
あたしは黙って時田の話を聞いた。
「人間の心の隙間に入り込み、その人間を使って自らの欲望を実行させる。そしてどんどんとその人間の心を支配し、終まいにはその人間の肉体すら自らの肉体そのものにしてしまう。」
『あたしも、そうなんの?』
あたしは怖かった。今までずっと自分の心の中にあったものの正体を知らされ、背筋が凍る思いだった。
だが動揺するあたしに、時田は優しく話を続けた。
「お前は俺が助けるよ。淫魔ってのは一筋縄じゃいかない厄介な相手だが、何とかできる。安心しろ。」
あたしはそれに頷いた。
「人ってのはさ、産まれた時から霊感を持ってるんだ。強さや質はそれぞれ違うけど、聖のそれは人並み以上に強くて、淫魔の好む甘美さを持ちあわせていた。だから淫魔の標的にされてしまったんだろ。」
時田はあたしの髪を撫でながら話続けた。
「俺も聖と同じ様に悪魔には好まれる霊感を持ってんだ。だから両親や乳母達も苦労したらしい。まぁ、今となってはある程度の低俗霊やそこらの悪魔なんかは自分でどうにでも出来るから、もう過度の心配もいらないけど。」
時田はそう言うと、自分の着けていたブレスレットを器用に片手で外した。
「銀ってのはとっても神聖で清らかな物なんだ。だから古くから魔除けなんかにも使われてる。聖の体が銀を受け付けないのは、体の中にある邪悪なものが銀を嫌うからだろうね。」
そしてそのブレスレットをあたしの腕に巻き、今まで強く掴んでいた腕を放した。
「敷地内は全て結界で守られていて、結界を張った術者が拒むものは入る事が出来ない。もし無理矢理結界を踏み越えるものがあれば、入った途端に地獄の苦しみが待っている。聖はずっと俺が体に触れていたから入る事が出来た訳だけど、放せばどうなるかは…身を持って体感したな?」
『…死ぬかと思った。』
あの感覚と苦しさは、もう2度と味わいたく無いものだ。
「あの状態が人間に1分以上続けば確実に死ぬ。」
時田は恐ろしい事をサラっと言った。
そんな言葉を聞き、あたしは慌てて時田の腕を掴んだ。
「心配するな、今は大丈夫だよ。そのブレスレットが君の邪な気を全て抑えているんだ。」
あたしは先程時田が着けたブレスレットをしげしげと見つめた。
いわゆる百合の紋章を形どった銀細工が幾つも繋がり、ブレスレットの形を成しているデザイン。
これがそんな役目を果たしてくれるとは、驚きだ。


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