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ヒジリ
【その他 官能小説】

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ヒジリ-14

「なぁ聖、体の調子はどうだ??」
煙草の煙を吐いた清があたしに尋ねる。
『絶好調!』
あたしは笑顔で答えた。
淫魔の消える瞬間を目にして以来、深い眠りの中であの“声”を聞くこともなくなった。それと共に衝動的に女の快楽を求める事もなくなり、あたしの心は平穏そのものだった。すると清は制服の内ポケットを探り始め、何かを手に握った。
「ほれ、手ぇだせ。」
言われるまま、あたしが右手を差し出すと、清はその手の薬指に1つのリングをはめた。
「前に言った通り、お前の霊感は邪なものに好かれやすい。だからそれはお守りだ。」
シルバーで造られたリング、側面には百合の紋章と何かの文字が刻印されている。
『あ、ありがと。』
あたしは思わぬ清からの贈り物に嬉しさを感じた。
けれど、それがなんだか気恥ずかしい。
「百合は俺の趣味、文字は魔除け。」
そう説明を付け加える清の言葉を聞きながら、あたしはそのリングをまじまじと見つめた。
「けど、それはあくまでも気休めみたいなもんだから…。」
『うん。』
きっと清はあたしを心配してくれたのだろう。
幼い頃は清も強い霊感故、悪いものに憑かれてしまう事があったと言っていた。そんな幼い頃の自分と、邪に対する抵抗策を持たない今のあたしを重ねているのかも知れない。
『ねぇ清、またあたしが何か悪いものに憑かれたら、助けてくれる??』
あたしにはそんな漠然とした不安があった。
淫魔を祓った時の清めは、外の世界で過ごすうちに効果を無くしていくという。
時田家の様に結界に守られた場所から出る事がなければ話は別だろうが、あたしにそれは不可能だ。
もしまた、淫魔の様なものに心を奪われる事があったら……。

「バァカ、憑かれる前に俺がずっと一緒にいて守ってやるっつ〜の。」
あたしは大きく目を見開き、清を見た。
そんな言葉、まるで……。

驚きのあまり、煙草の灰を落とす事さえ忘れていた。
先端に溜った灰は重さに耐えかねて指先から離れ、重力によって下に落ちたそれは風に流されて消えていった。
『それって、愛の告白?』
あたしは尋ねた。
「うん、ついでにプロポーズも含めてるつもり。」
清はあたしの問いにさらっと答えた。
『じゃぁこのリング、左手の薬指にはめ直さなきゃ。』
「ん、そうして。」
あたしは短くなった煙草の火を消し、右手のリングを左手の薬指にはめた。
それを見た清は優しい笑顔を浮かべた。
「聖、愛してる。」

この時、あたしは自分の名前を心から好きになれた気がした。

清がこの名を呼んでくれるのなら、きっとあたしはこの名を誇りに思える。

これからはこの《聖》という名に恥じない生き方をしよう、清と共に……。


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