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ヒジリ
【その他 官能小説】

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ヒジリ-10

『じゃぁ、これを着けていればもうあの“声”は聞こえないの?!』
あたしは時田に尋ねた。
「声?そうか、聖は淫魔の声を聞いているのか。……残念だけど、そのブレスは一時しのぎでしかない。1時間もすれば抑え込んだ淫魔の邪に溢れて、砕けちまう。」
あたしの気持ちを察してくれたのか、時田は申し訳なさそうに言った。
「けど、これから聖の中の淫魔を完全に祓っちまおうと思う。」
『どぉやって??』
5年間も私の中には悪魔が巣くっていた。そんな事実を知って、あたしにはこの悪魔から逃れたいと言う気持ちが生まれていた。
もし今の自分が本当の自分じゃないのなら、あたしはずっと本当の自分と向き合ってこなかった事になる。
本当の自分が知りたい…。
初めて芽生えたこの気持ちに戸惑いながらも、本当の自分を知る事が出来れば変わる事が出来るかも知れないという希望があった。
「まず始めに、聖の中の淫魔を無理矢理取り出す。」
時田は静かに説明を始めた。
「そしてそれを一時、あるものに封じさせる。」
『あるもの?』
その静かな説明にあたしは相槌を打ち、時折疑問を尋ねた。
「これだ。」
そう言った時田は制服の内ポケットから小さな木箱を取り出した。
そこには小さな和紙が何枚も納められており、時田はその中の1枚を手に取ると箱を再び制服にしまった。
「式神って言って、俺達を助けてくれる。こいつはその中でも特にお気に入りなんだ。」
時田の掌にあるその紙をよく見ると、筆で書かれたと思われる何かの文字が並んでいた。
そして時田が紙を掌で握りそれを再び開くと、そこから一閃の光が飛び出した。
『うわっ!』
光は時田の掌を覗き込んでいたあたしの顔をかすめ、ふわふわと宙に浮いた。
「皇〈スメラギ〉って言って、俺が初めて心を通じた式神なんだ。」
皇と紹介された式神は次第にはっきりとした色を持ち、それはそれからあっと言う間に鎧甲冑を身に着けた人の形を成した。
〈悪魔に魅いられたお嬢様、初めまして。皇にございます。私から見てもお嬢様は実に魅力的だ。淫魔等という低俗な族を消し去った後は、是非私をお召し下さい。〉
低く空気を震わせる声が響いた。
そしてその声の主はあたしの手を取ると、手の甲に唇を寄せた。
「皇、淫魔を祓う前にお前を祓うぞ。」
時田にそう言われた皇は釈然としない表情を浮かべながらも、時田の後ろへと下がった。
本当にこの2人は心を通じたのだろうか?
そんな疑問が残ったが、時田が再び説明を始めたので、あたしはその疑問を心の中に閉まった。
「次にこの皇が淫魔を抑えている間に、もう淫魔が聖の体に戻れない様に聖を清める。1度取り出しただけでは、淫魔はすぐに長年馴染んだ聖の体に戻ってしまうだろう。だから聖の方を淫魔には適応させなくする。」
時田の後ろで皇が、任せておけとでも言いたげなそぶりを見せた。
「そして聖が清められた後は、淫魔を放す。」
『放しちゃっていいの?!』
そう詰め寄るあたしに時田はこう付け加えた。
「この場所に閉じ込めてしまえば、淫魔とて長い時間はいられない。淫魔の限界がくれば、後は塵も残らず消えるよ。」
『わかった。』

いよいよ、あたしの運命を変える瞬間が近付いてきた。
時田は制服のブレザーを脱ぎ、ネクタイを外し、最後にシャツのボタンを外した。
「準備はいい?」
『いいよ。』
あたしは時田の目を真っ直ぐ見据えた。
その目もあたしを真っ直ぐ見つめ返した。
そしてゆっくりとあたしに歩み寄る。


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