『桜屋敷・輪姦』-1
天井に近い、格子のはめられた小さな窓から、はらはらと桜の花弁が落ちてくる。この地下に半分以上埋まった座敷牢に監禁された時は満開であった花の木は、既に葉桜と姿を変えているらしい。その名残が、鎖で繋がれた令嬢・詩織の足元にまで届き、時間の経過を教えてくれる。
首に犬のような首輪と鎖をつけられ、その端は土壁に繋がれているわずらわしさにも、慣れてきてしまっていた。伯父の雄一郎は、一日のうちの殆どを彼女の座敷牢ですごし、昼と無く夜となく気が向けば娘を犯す。それ以外の時間は、食事を手ずから食べさせるか、牢の隅においてあるソファに腰掛け、とりめもない話を一歩的に語りかけていた。
(わたしは何故、死を選ばないのかしら…?)
詩織は自らに問うていた。最初に辱められた後、すすり泣く自分に吐きかけられた言葉。
『舌を噛み切るなり、なんなりして自害するかね?それも構わんよ。そのままのあられもない姿で、銀座の往来の真ん中にでも屍を晒してやろう。大事件だ。元橋男爵の一人娘が、どんなことをされたのかは、世の好きもの達の耳目を集めるだろう。私の復讐は、それでも成るのだから』
残酷な脅しであった。しかし、こんな目に遭う位なら、死後の恥も、親不孝も構わずに命を絶ったほうがましなのではないか。猿轡をされているのでもない、やろうと思えばいつでもやれる。それなのに、何故未だに生き永らえているのか?
天井の一部が開き、階段を雄一郎が降りてきた。手に膳を抱えている。
『昼食だよ、詩織』
詩織は目を逸らしたままだ。雄一郎は膳を彼女の前に据えた。暖かな豆腐の味噌汁と白飯、出汁まき卵に青菜の白和えなどが清らかに盛り付けられている。食欲など、まるで無い。しかし、以前食事を拒んだとき、雄一郎が咀嚼した料理を無理やりに口移しで食べさせられた。あんなおぞましいことを避けるために、形だけでも箸をつけねばならない。この屋敷のただ一人の使用人である、耳の遠い老婆の作ったものは、どれも味は悪くなかった。
物憂げに食事を続ける詩織の様子を少し離れたソファに腰掛けて眺めながら、雄一郎は口を開いた。
『知らなかったろうが、ついこの前まで君の父上に命じられた警察が、この屋敷に君を探しに来ていたんだ。何度もね』
思わず、箸を取り落とす娘を、楽しげに見やりながら続ける。
『この座敷牢の存在は、父上は知らない。代々元橋家で使われていたらしいが、今では私しか存在を知らん。しかも、この場所は巧みに外から隠されていて、滅多なことでは見つけられないのだよ。君が【行方不明】になってから、一族は上を下への大騒ぎだ。私は、心配そうな顔をして何度もを見舞ったさ。最初は私を疑っていたが、だんだん情にほだされてきてね、昨日などは涙を流して、【兄さん、今まで悪かった。許してくれ】ときた。内心、せせら笑っている私の心も知らずにね』
詩織の目が、怒りにきらきらと燃えている。おっとりとしただけの少女だと思っていたが、監禁してから時折見せる芯の強さを、雄一郎は意外に感じていた。また、そういった時の詩織の顔は、表面の博多人形のような貌に、激しい感情の彩りを添え、一種凄絶とも言える美を湛える。その表情を引き出すのが、また楽しみになりつつあった。
『それだけ父を苦しめたら、もう十分でしょう、伯父様。こんなことはおやめください!』
『弟に家督を奪われ、男としての矜持を全て打ち砕かれた恨みが、そう簡単に消えるものか。しかし、君がこの先も私の言うことに逆らわないのならば、やつの苦しみを弄ぶのだけは、もう止そう。』
『…そのお言葉、本当ですか』
『勿論だ。君が、おとなしく私の玩具になっているのならね。早速そうなってもらおうか。こちらに尻を向け、壁に手をつけ!』
わなわなと震える詩織が、ゆっくりと立ち上がり、言われたとおりにする。
『着物の裾をまくって尻を突き出せ』
もう早、怒張した己自身を下着から抜き出し、まだ濡れていない令嬢の中心に力を込めて打ち込んだ。
『あ、はあっ!!』
痛みに顔を歪めるが、徐々にぬるぬると太腿を伝わる愛液。
(…随分と躯が反応するようになったものだ)
腰を抱えて、詩織の柔肉を抉りながら、陶然と雄一郎は考えていた。
唇からこぼれる声は甘く響き、絶頂に近づくと、知らず知らず腰を使っている時すらある。いずれ、復讐の総仕上げとして、詩織を女郎屋に叩き売るつもりなのだが、それもそう遠い日ではなさそうだ。いずれにせよ、ことが発覚し、計画が台無しになる前に、少し急ぐ必要があるかもしれない。どんな男に身を任せても、詩織が悦びを覚えるように、調教しなければ。