人気少年【制約】-4
ぱさり
「あ」
紙が、落ちた。間違いなくボクの下駄箱の中から。
二人の顔が、誰の目にも明らかに動揺と驚きに歪む。
「マ、マジ〜!?」
「ホントに入ってたぞ、ラブレター!!」
二人は大興奮だ。まだラブレターと決まったわけでもないのに……
「ま、まだラブレターとは限らないよ。」
口ではこう言うが無論ラブレターであってほしい。というかラブレターでなかったら、この後なにか物凄く気まずい雰囲気になること請け合いだ。
ボクはすぐに拾いあげた。紙には字が書いてある。
「いやあ、いまどきラブレターだなんてコレまた古めかしい子もいるもんだなー」
「『どこそこで待ってます』とかやっぱ書いてあるワケ!?わはは!」
プチお祭り状態の二人を脇目に、ボクはさっさと紙の文面を読み進める。
……間違いなくラブレターだった。そして、ボクはその差出人の名に釘付けになった。
"沖田麻理子"
差出人は、あの麻理子だった。ボクにラブレターを当てたのは、あの麻理子だった。
「おいおい見せろよ雪〜」
「刺激的なこと書いてあるかあ?」
「メッ!ラブレターは他人は見ちゃいけないんだよっ」
ボクは好奇の目を向ける二人を振り払い身を翻し、また冷静にその内容を読み返した。
"私、真緒に伝えたいことがあるの。
もしよかったら、今すぐに体育館裏に来て。あたし待ってるから。
沖田麻理子より"
…麻理子は意外と積極的みたいだ。
『いますぐ』
麻理子は、今まさに体育館裏でボクを待っているはずだ。
おそらく告白の言葉を何度も頭の中で反芻させながら…何度も頭の中で過去と未来を行き来しながら…
ドキドキする。
「なあ、雪い…」
「あーーーーー!!!」
ボクはわざとらしく叫んだ。
「うわっ!い、いきなり大声あげてなに…」「忘れ物っ、忘れ物したんだ教室に!二人とも、ちょっと、その、アレだ。先帰ってて!」
ボクは捲し立てるように言った後、廊下を走って戻っていった。
「ちょ、おい雪どうしたんだよ!」
「ラブレターどうだったんだ!?」
二人の声が聞こえる。ボクは無視した。
「よっ…と」
ボクは通用口から外に出た。体育館裏へはここからが一番近い。
土に一歩踏み出す。まだ上履きをはいたままだけど、乾いた土にはさして気兼ねの種にはならない。
人がいないか、石田と風見につけられてないか確認しながら、小走りで体育館裏に急ぐ。
一分も立たずに体育館周辺にたどり着いた。角っこから、そっと体育館裏を覗きこむ。
…麻理子がいる。
淡い茶髪、ポニーテール、細くて白い足に長めの紺のニーソックス。間違いなくあの子は沖田麻理子だ。
下を向いている。かすかに震えているような気もする。
台詞を何度か心の中で繰りかえす。一度大きく深呼吸する。ボクは意を決して、体育館裏に出た。
「沖田さん!」
ボクの呼び掛けに、麻理子が顔をあげた。
「来てくれたんだ、真緒…!」
朝日が顔を出すように、麻理子の顔がぱあっと晴れやかになっていく。その表情に、またボクの胸が熱くなる。
ボクは麻理子に駆け寄った。