人気少年【制約】-11
そうだ。そうだそうだ。
麻理子だって、いま『何か』を期待している。ボクが直接『好きではない』とは言わなかったことを麻理子だって気付いてるんだ。
ボクの答えを聞かずに帰ってしまったことを、麻理子はおそらく何よりも後悔していた。だからこその、今の一言だ。
麻理子の気持ちが手にとるように分かる。今だ。言うなら、今しかない。
ボクは麻理子をまっすぐ見つめた。
麻理子も見つめかえす。
うるさかったくらいの雨音が、いまはほぼ耳に入らなくなっている。
ボクの口が滑り出した。
「まず勘違いしないでほしいんだ。ボクは、君が嫌いなわけじゃない。
いやむしろ……というか、ボクは好きだ。沖田さんが、好きだ」
言ってしまった。流れるように。あっという間に。
麻理子は呆気に取られている。
長い台詞は苦手だ。嫌が応にも芝居がかってしまう。
だけど、まだだ。ここで止めるワケにはいかない。すべてを伝えるんだ。
「沖田さんに告白されて嬉しかった。嬉しかったんだよ。
でもね、付き合うわけにはいかなかったから、『好き』と言うと傷つくと思って言えなくて……その……」
言葉につまる。まずい。勢いに任せてまずい事を言ってしまった。
麻理子を安心させるために来たのに、これじゃあ……
麻理子からは案の定な反応が返ってきた。
「付き合うわけには、いかなかった……か」
麻理子がボクから視線を外した。
……雨音が異様にうるさくなる。
――ダメだ、このままじゃあ、来た意味がないよ。
付き合うわけにはいかなかったのにはちゃんと理由があるんだ、それを今……
言ったところでどうなるというんだ。更に麻理子を傷つけてしまうのではないか?
また、喉がつまる。舌が痺れる。言葉が出ない。ひたひたと沈黙が近付いてくる。
……沈黙は怖い。沈黙だけは近寄らせてはいけない。ボクはなんとか力ずくで言葉を捻り出した。
「でも、ボクは沖田さんが好きなんだ。これだけは、嘘偽りないホントのことだ」
麻理子はボクから視線を外したまま、呟くように言った。
「でも……"私だけが好き"ってわけではないんでしょ……?」
雨音がどんどん大きくなっていくのに、それをうるさいと感じる余裕すらなくなってくる。
麻理子の言った事は全くの図星だ。ボクは、何も言えない。
ボクは反応する術を見失った。無意識に、顔を俯かせてしまう。
その時、麻理子がふとボクの頬に触れた。
「……私、意地悪だよね。意地悪で、素直じゃない……真緒がきてくれて、すごく嬉しいのに。」
……!
麻理子がボクの頬を優しく撫でる。
……麻理子だって、いま頑張っているんだ。自分の気持ちに素直になろうと、必死に。
このままなら、何とかいい方向に転がりこむかも知れない。不謹慎かもしれないがボクは少し麻理子を応援した。
「私、ここを離れたくない。
二年生で真緒から離れて……それだけでも辛かったのに……!」
言いながら、麻理子の足下にポタリと水滴が落ちる。
麻理子は軒下にいたから雨を浴びていない。なら雨粒じゃない。
ボクは顔をあげ、麻理子を見た。……泣いている。
「私はここから離れたくない。真緒から離れたくない。
ずっと真緒といたい。真緒の……特別な存在でいたい!」
麻理子は一際声を張り上げそう言った。
麻理子の熱を帯び潤んだ目が、ボクを見つめる。
胸が……痛い。