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パルティータ
【SM 官能小説】

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パルティータ-6

その日の夜、女は美容師の男とホテルにいた。窓から忍び込んでくる月の光は女と男の体を蒼白く湿らせた。ふたりの周りはとても静かだった。静かすぎる空気は女の中にある予感をくすぐった。
欲しがる女にその男はとても敏感だった。彼はそんな女の扱い方に慣れていた。男は全裸にした女の手首と足首をベッドの端々にロープで縛り、ベッドの上で仰向けに磔にした。不敵な男の微笑から、女は彼がそういう男であることに気がつき、彼女自身の無防備な不在が奏でる懐かしいストーリーを感じた。彼は自分をどうにでもできる、そう思うと女はなぜか安心した。それはK…に刻まれた懐かしい感覚だった。

 男は女を卑猥に眺め尽くした。その視線は女の肉体を淫靡に少しずつ恥辱に晒し、皮膚を剥ぎ、心も記憶も無残にえぐり出した。それは遠い記憶の中にある快感へと女を導いた。
 無防備な肌に触れた彼の唇は優しかった。優し過ぎる唇ほど残酷なものはなかった。女の肉体に潜んでいる虚ろな淋しさを見逃すことなく、彼の舌は女の中のどんな部分にも入り込み、容赦なく女の心と体を開かせ、疼かせ、滲み出す蜜をすすった。
無音の肉体がいつのまにか密度を濃くしていった。男の唇と指がめまぐるしく女の肌の上を這い、彼女の寂しげだった空洞を充たし、何かの記憶をむき出しにしていった。ふと目をやったホテルの窓のカーテンが潮の匂いを含んだ風で微かに揺れていた。窓枠で切り取られた先は見えない。女は自分がいったいどんな風景に身を置いているのかわからなくなった。
男は自分のものを女に与えなかった。与えないことで女を飢えさせることができることを、彼女がそういう女であることを知り尽くしていた。彼は美しい人差し指と中指で女の肉の合わせ目を淫靡になぞり始めた。それは女の体をさらに悩ましく、息苦しく火照らせた。やがて女に中に沈み込み、抜き差しされる指は女を焦らし尽くそうとする。不意に女は自分の肉体を抜け殻のように感じた。挿入された男の指の確かな存在感はあるのに、それがいったい自分にとってどういうものなのか女はわからなかった。それは女の髪に触れた美しい男の指であって、彼の性器ではない。肉襞が彼の指を包み込み、輪郭をなぞっているのに《男の指の意味》を意識できない……それなのにひたひたと押し寄せていた快感は女の体に火をつけ、狂おしいほど焦らし続けた。肉体が肉体としてえぐられ、穿(うが)たれていった。収斂(しゅうれん)と弛緩(しかん)を繰り返す肉襞が抜き差しされる彼の指で焦らされ、痛めつけられるように喘いでいた。
もっと苛めて……と女は喘いだ。男は微かな笑みを浮かべて言った。どんな風に虐めて欲しいのですか……。その声とともに女は肉奥に痙攣を起こし、烈しい嗚咽とともに高みに達した。


 男の肉体はとてもしなやかで、肌は肌理が細かく瑞々しさをたたえ、女が嫉妬すら感じるものだった。椅子に腰かけた男は、ベッドから解放した女に後ろ手に手錠を嵌め、自分の眼の前に跪かせた。その姿は支配するものと支配されるものを女にはっきりと意識させた。男は下腹部の紐のような下着を脱ぎ捨てペニスを女の前に晒した。疎らな陰毛の中で彼のものは性器を意識させない、美しく整ったペニスだった。
女は顔の前に突き出された男のペニスの亀頭に唇を添えた。深く溝の切れた形の整った肉厚の亀頭のえらを舌でゆるやかになぞった。堅くなっていないペニスが冷たく女を嘲笑しているような気がした。唇に含むとその嘲笑が女の口の中に溶け、咽喉をくすぐった。そのとき女は息がつまるような飢えを感じた。体の芯がキリキリとねじられるような飢えは肉体の隅々まで紋様を刻んでいく。男のものは柔らかいのに、危うく、何か畏怖のようなものを感じさせた。女は自分の性器の奥に暗い闇に満たされた空洞を強く感じた。

もっと、ぼくのものを堅くしてください……と彼は笑いながら言った。

唾液が溢れるよう湧き出てくる。唇をすぼめ、舌をよじらせ、女は烈しく彼のものをしゃぶり、擦り、咥え込む。唇と肉幹が粘っこい音をたてて戯れる。狂おしい酔いが女の舌を蕩(とろ)けさせ、麻痺させていく。女が欲しがるものがしだいに漲(みなぎ)り、幹に流れる男の烈しい血流を感じる。その瞬間、男の腰が突きあがり、幹が小刻みに震え、生あたたかいものが口の中に飛び散った。ゆるんだ女の唇の端から白濁液が糸を引くように滴る。そのとき女は懐かしい匂いを感じた。遠い記憶の中に漂う匂い。それは確かに彼女が十七歳のとき初めて感じた匂いだった。
飲んでください……ぼくのすべてを………と、男は女の髪の毛をあの美しい指で撫でながら言った。

 一か月後、ふたたび美容室を訪れたとき、彼はいなかった。行先はわからなかった。男の名前も電話番号も知らない女は、彼と連絡を取るすべがなかった。あのとき以来、中途半端にくすぶっている体の中の微熱がもどかしげに彷徨(さまよ)い続けていた………。



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