GAME-3
「お邪魔しまーす」
私は後ろ手でドアを閉め、キーボードをカタカタと叩いてる兄のそばへと近付いた。
大学のレポートらしかったが、兄は私が来たことでそれを保存して、パソコンの電源を消した。
私が部屋を訪れた目的が分かったのだろう。
「やって。お兄ちゃん」
言わなくても良いのだけれど、一応確認という意味でソフトを差し出した。
「俺がやっていいのか?」
「うん」
私がパッケージのビニールを剥がしている間、兄はこのゲームをする機種を準備し始めた。
几帳面な性格の兄は、いちいち機種本体を片付けているのだ。
ゲームだけではない。
大学で建築を学んでいる兄の部屋には、それに関する様々な本や雑誌があるのだが、それらは皆全て本棚に綺麗に整頓されている。
それに比べて私の部屋は、漫画本やファッション誌、服や小物が所狭しと散らかっている。
母には、それでも女の子なの?とよく叱れるものだ。
準備を終えた兄が手で合図を出した。
私は早速、箱を開けて中のソフトを本体へと入れた。
機械音が機種本体と、それに繋がっているテレビから流れた。
兄は二人用の小さなソファーの右側に腰掛けた。
こういう時は、私は決まって左側に腰掛ける。
この時も兄の隣へと座った。
画面には機種本体のメーカーロゴが表示され、次にソフトの販売元や様々な関連会社が表示された。
私は高まる期待を胸に、まだかまだかと画面に見入った。
やっと開始画面が現れ、兄はすぐにボタンを押して始めた。
それから一時間程過ぎて、階下から母の私達を呼ぶ声が響いた。
「ご飯できたわよー!」
今までゲームに夢中になり、ほとんどのめり込んでテレビの中の仮想世界に居た私は、そのとても日常的な呼び声で現実へと戻ってきた。
「飯だから、ここで一回セーブするな」
兄はそれほどこのゲームに夢中となってはいなかったのだろうか。
至って普通に話していた。
電源を消し、私達は揃って食卓へと付いた。
何気無い会話。
父はいつも会社が遅いため、食卓には私と兄と母の三人が話をしながら囲んでいた。
日常の生活風景。
先程まで陶酔しきっていたあの世界とは、似ても似つかない楽しい風景。
だけど、この後私は知ることになる。
いや、正しくは分かるのだ。
あの世界もこの世界も、同じ世界なのだということを…。
食事を終え、私はごちそうさまと母に伝えて二階へと上がった。
私より先に食べ終えた兄は、一足早く自室へと篭っていた。
きっと兄は私を待っているだろうと思った。
いつものことながら、兄は一人で先にゲームをしたりはしない。
特に私が望んだゲームは…。