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GAME
【ミステリー その他小説】

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GAME-4

だけど、いざ兄の部屋へと入ろうとした時、扉の微かに空いてる隙間からゲームの音が漏れていた。
「お兄ちゃん?先やってるの?入るよ?」
返事を待たず、私は兄の部屋の扉を開いた。
電気も点けずにいる部屋は、暗く、テレビ画面からの光だけが空間を照らしていた。
ソファーに座りゲームをする兄の影が、廊下の明かりで出来た扉の形をした四角い場所に細長く浮かんでいた。
私は言葉に現せない異様な空気を感じた。
寒気さえした。
それは兄とテレビのちょうど中間辺りから漂っていた。
「…どうしたの?お兄ちゃん…」
声が震えているのが分かる。
私は何かに怯えているようだった。
「…お兄ちゃん?」
再度呼び掛けてみても、兄からの返事はなかった。
私は怖くなり、兄の部屋を出ようとした。
「…こっちへ、おいで」
私が背中を向けた所へ、兄の声が撫でるように届いた。
「…おいで」
静かに語り掛ける兄の声と、ゲーム上で銃を乱射しているような音が、私を部屋の中へ誘う。
まるで操り人形のように、私の足は私の意思に反して兄のそばへと歩んで行った。

触りもしないのに、開けていた部屋の扉がバタンッと音を立てて閉まった。
私はそれにビクッとしながらも、一向に止まることのない足を見つめ、次に兄の背中へと視線を向けた。
「…ここへ、座って」
兄の真後ろに立った私に、一度も振り返ることなく兄が言った。
体は言われた通りに行動する。
私は兄の隣へと座っていた。
「時々こうやってゲームをしていると、自分が何処に居るのかが分からなくなる時があるんだ」
兄は画面から目を反らさずに話す。
私はそんな兄に恐ろしさを感じて直視できなかった。
「最近、その症状が段々と酷くなる。大学でも、家でも、自分が今存在している場所が本当の世界なのかゲームの世界なのかが分からなくなるんだ」
私は兄ではなく、画面を見ることにした。
本当ならすぐにでもこの場を離れたかったが、まるで魔法…いや、呪いでもかけられたように体が動かせないのだ。
だからせめて、先程まで夢中となっていたゲーム画面に目を移した。
でも、私はそれをすぐに後悔した。
テレビの中のその世界では、より一層恐怖を募らす惨劇が映し出されていた。
明らかに異様な光景だ。
兄の命令通りに動くこのゲームの主人公は、善良な市民という設定であるはずの人だけを殺していくのだ。
ある者は炎で焼かれ、またある者は銃で撃ち抜かれ、リアルさが売りのそのゲームでは、手足が飛び散り、人々が悲鳴を上げてのたうち回っている。
私はその惨劇を目の当たりにしながら、横目でちらりと兄の顔を覗いた。
誰もが一度は悪戯心や興味本意でやるその光景を、兄は実に愉快そうにしていた。
「これが擬似世界だと分かっていても、本当に人はこうやってもがくのか試してみたくなる時があるんだ」
口の端だけで作られた笑みを、兄は崩さずに続けた。
「その対象は自分を信頼し、自分が守るべき相手ならなおさら良い。相手が自分に油断し、絶対と思っている所を崩し、裏切られたという絶望的な表情を見せてくれからね」
私には最早、兄が何を言っているのかが分からなかった。
ただ分かるのは、身体中の汗という汗が吹き出て、背筋を通る悪感に凍えていたこと。
それが私にこのままでは危険だと伝えていたことだった。
「初めはそんな忌まわしいことを考える自分に嫌悪感を抱いていた。だが、それに相反して、ずっと自分を最も信頼する人物は誰なのかを考え続けていた。答えはいつも、全てが唯一人の人物だけを挙げるんだ」
この世界で最も兄を信頼する人物…。
その最後の言葉の答えに私は行き着き、と同時に激しい悲しみに襲われた。
その答えは…もちろん、私なのだ。


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