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ある熟女の日々
【熟女/人妻 官能小説】

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品行方正-1

 関係を持つと秘密を作りたがる男が多いのはなぜだろう。お互い妻や夫とはすることのない性戯や体位を駆使して情交に耽っていることもあって、ある意味『なれなれしく』なるのかもしれない。せっかく共有した後ろめたい秘密を有効に使って、特別な関係を結んでいることを意識させたいのだろうか。

 「今度逢うときはこれを穿いてきてくれませんか」

 手渡されたのはわたしのお尻には明らかにサイズが小さい下着。わずかな形状の差で前後の区別がつくようなデザイン。『セクシーランジェリー』と言えば聞こえはいいが、色といい妙に光沢のある生地といい『変態下着』の部類だろうか。

 「わたしにはちょっとサイズが合わないかも…」
 「いいんです。合わないくらいがちょうどいいんです。…そうだ、今度と言わず、今日穿いて帰ってみてくださいませんか」

 穿いてみるとサイドの布…というか紐といった方がいいくらいの細さの布が腰骨の下までしか来ない。引き揚げようとすると股に喰いこんでしまう。

 「おお…。スジが浮き出ていますね。素晴らしい…」

 穿いている…というよりも、ひも状の布が腰回りにまとわりついていつだけのような感覚。性器に貼りつくような感触がいやらしい。確かに縦にスーっと『スジ』まで浮き出ていて、性器の所在を主張しているかのよう…。

 「…ちょっと、落ち着かないですね」
 「その分、意識が集中するでしょう。ボクとの情事をいやでも意識しながら家路についていただけると思うとすごくうれしいです。お家に着いてもそのままキッチンに立っていただいてお料理でも作っていただきたいです」

 夫のもとには帰しても自分との関係を意識させていたいということなのだろうか。そんな心理は無邪気でかわいくもあると思えなくもない。

 「今度、写真…撮ってもいいですか」
 「えっ? それはちょっと…」
 「ああ、すみません。もちろんお顔などは写しませんから。こんな感じで目線を隠していただいて」
 「でも、ちょっと怖いかも…」
 「はは…別に貴女をゆすろうだなんて悪いことは考えていませんよ」

 そう言って男がカバンから雑誌を取り出す。どうやら、そういう関係の男女やそういう趣味のある夫婦が、自分たちの行為を撮影して投稿した写真を掲載しているらしい。

 「ほら…このカップルなんか、ボクたちみたいじゃありません?」

 確かに、年恰好の似た男女が、今いる部屋と同じようなホテルの一室で繰り広げている痴戯が載っている。男女の目の辺りは黒く塗りつぶされているからどこの誰かはわからない。とは言え、雑誌に載せるときに塗りつぶすのだから、元の写真は顔もそのまま写っているのだろう。さすがにそこまでのことはできないと思っていると、掌を向けて目の辺りを隠して写っている人もいる。

 「そうそう。こうして写れば大丈夫でしょう?」

 男がしてみせる手のひらで目の辺りを隠す仕草をまねていると、男が指で四角形を作ってアングルを想像している風。わたしも鏡に向かって身体と下着を映して、目元にかざした掌の指の隙間から様子をみる。どこにほくろがあったりするでもなく、どこの誰かはわからない…。などと、自分を納得させようとしている自分に驚く。

 「じゃ、これはいただいていきますね」

 ちょっと思案している間に、来るときに穿いていたショーツをポケットにしまわれてしまった。

 そんなことをされたらこれを穿いて帰るしかない。困ったような笑顔を浮かべてはみたが、強く返還を求めるのもどうかと思い、期待に応えてそのまま帰ることにした。

 「かわりにもなりませんが、よかったらお家で見てみてください。ご主人には内緒でね」

 雑誌などを受け取ってしまいながらホテルを出る。外見は普通でもスカートをまくれば紐のような下着をつけていると思うと、心なしか気分が高揚してくる。歩くたびに股間や尻に喰いこんでくるようだ…というかはじめから喰いこんでいる。小さな布切れからは陰毛も隠し切れない…というより思いきりはみ出たまま。絶対に人には見せられないという緊張感もなぜか心地よい。

 こんなときに車にはねられては…と横断歩道も信号が青になってから左右に十分を気を付けて渡る。なにせ、おかしな雑誌まで持っているのだから。なにかにつまずいて転んだりしてもいけないから、慎重に歩を進める。ついさっきまでの『非行』と裏腹に品行方正な行動をとっているのが自分でも滑稽だ。

 駅に着いたがいつものようにエスカレータに乗るのがためらわれる。普段は使わないエレベータに乗る。お年寄りが歩いてくるのが見えたから、『開』のボタンを押して乗り込むのを待っている。

 「すみませんねぇ…、ご親切にありがとうございます」
 深々とお辞儀をされてしまう。またしても品行方正なわたし…。

 「今日は昨日と打って変わって冷えるわねぇ」
 「そうですね…。季節の変わり目ですものね」

 天気に関する会話を一往復もすればエレベータはプラットホームと同じ階に着く。エレベータの中に張られた鏡に自分を映して、外見上おかしなところはないことを確かめる。

 「ご親切にありがとうございます」
 
 エレベータの降り際にも丁寧に礼を述べるお年寄り。

 「いえ、お気になさらずに…」

 そう応えた瞬間、小さな布では押さえ切れなかった情事の名残が膣から垂れ落ちる感触に思わず太腿を閉じる。

 「お風邪など召しませんようにね」

 お年寄りに破廉恥な下半身を見透かされたような気がして、脚を揃えて立つエレベーターガールのような姿勢のまま、下りていくお年寄りを見送る…。『変態下着』にさらに喰い込まれた股間が、男に渡された雑誌のことを思い出させる。電車の中で見る訳にはいかない。わたしは、階下のトイレで繰り広げる自分の痴態を想いながら、そのまま『閉』ボタンを押した。


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