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ある熟女の日々
【熟女/人妻 官能小説】

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マスク-1

 里の母から包みが届いた。開けてみると手縫いのマスクが5枚ほど入っている。縫製工場に勤めていたからミシンの扱いには慣れている。どこからか手に入れた布を使って作ったのだろう。姉たちにも送ったらしい。

 マスクをかけるのが当たり前の世の中になって随分時間が経った。感染症がまん延するのは困るけど、人様に顔を晒さないで済むのにはありがたい面もある。鼻風邪をひいてティッシュを使い過ぎて鼻の周りが赤くなっても平気だし、何より、外出するときのお化粧も目元ぐらいで済むのは非常に楽で助かる。夫も、無精ひげを伸ばしたまま会社に行ったりもしているようで、同じような感想を漏らしている。

 マスクをしていれば、自分がどんな表情をしていても人に見られることもなく、気分的にかなり楽だ。逆に言えば、普段、どれだけ気を遣っていたか、ということにも気付かされる。まあ、ほぼ自意識過剰ではあるのだけれど。

 マスクの時代になって、人の顔を覚えられなくなったような気がする。覚えられなくもなり、覚えていられなくもなった気がする。家の近くのスーパーで不意に声をかけられてまごついていると、怪訝に思った相手がマスクを外して見せると、娘の同級生のお母さんだったと初めて気が付くような始末…。歳のせいで記憶力が落ちているのかもしれないけれど、顔の半分が隠されていると、人の顔の特徴もかなり曖昧になってしまうもののようだ。

 以前、口の周りの皮膚が荒れてしまってマスクをしていたときは、会う人合う人に、『風邪ひいちゃったの?』とか『どうかしたの?』とあれこれ話しかけられたものだ。人様に顔を見られたり、ましては顔を覚えられたりしたくないようなところを出歩いていたりもするから、マスクをしていることの違和感が世の中からなくなったとすれば、ありがたい話だ。

 男にしてみると、マスクをしている女というのはどこか色っぽさがあるらしく、ひとしきりキスや口淫をしてから、騎乗位でつながっているマスクをつけることを求められたことがある。

 「すみませんね。せっかく美人でいらっしゃるのに変なことをお願いして…」
 「いえ、わたしは構いませんけど…」

 ベッドサイドに置いていたマスクを男が渡してくる。マスクをかけて再開…。両手を恋人繋ぎにしながら腰を揺すっている。男は満足そうに見上げている。

 マスクをかけてみると、今さらではあったけど、ありのままの顔ではなくなった分、後ろめたさが少しだけ軽くなったような気もする。こちらの正体を明かさずに、カラダだけの関係を愉しんでいる感じとでも言ったらいいだろうか。

 ちょっと息苦しくなくもないけれど、自分の生々しい呼吸がそのままよく耳に届くのは、ちょっといやらしくもある。

 ひところエイズだとかサーズだとか、こわい病気のことも話題になっていたけれど、『自分だけは大丈夫…』みたいな都合のいい思い込みで、ゴムをつけるかつけないかも、ただただ自分が安全日かそうでないかだけしか考えていなかった。誰かと密会するときも『体調は良好、熱もありません』などというやり取りが当たり前になっている。それまではそんな会話をすることもなかったが、キスひとつにしても考えてみれば随分と危ない行為であるとは思う。

 これまでおかしな病気をうつされたりすることもなく来ているのは、運がよかっただけなのかもしれない。病気のことだけでなく、密会しているホテルや旅館が火事になったり、なにより、トラブルに巻き込まれるような相手と遭遇しなかったことにも感謝しなければならないのだろう。

 そんなことを思っているうちに、買い物に出かける時間になってくる。せっかくだから送ってくれたマスクをしていこうと思うが、どれも下着のようで妙になまめかしい。下着のよう…というよりは下着を縫製した残りの端切れを使っているのは間違いなさそうだ。娘たちにこんなマスクを送るのはどういうつもりなのだろう。いたずらっぽく笑っている母の顔が思い出される。

 「いまどきマスクはありがたいけど、あれじゃあお買い物にもしていけんわよ」
 「普段の買い物にしていくにはちいとお色気過剰やったかな」
 「そうよ。ワインレッドにパープルで白いレースの刺繍までついていて…。せいぜい白か黒にしてもらわんとねえ」
 「まあ、買い物にはしていかんでも、間男と逢うときにでもつけたらどうや」
 「もう! お母ちゃんったら! でも、そんなことかもしれんとは思うとったんよ」
 「そうやろ? あんたは昔から察しがええ子やからな。ちゃんとマスクに仕立ててから、八幡さまに娘たちの家内安全と身体健康をお願いしとるから、いっそう気張って励んだらええわ」
 「やっぱりね。うれしいわ、お母ちゃん。この前なんかね、跨ってつながったと思ったらマスクして、ってせがまれてねぇ…」
 「まあ、そんな話は娘たちから今度たっぷり聞かせてもらうわ。そんなところでうたた寝して風邪でも引いたらどうするんや。近々、間男とも逢うんやろ? 鼻が詰まってたらせっかく竿をしゃぶっても息もできんがな。まずは、買い物に行ったらどうや?…」

 …ついうとうとしてしまったようだ。感染症もこわいけど、鼻風邪もつまらない。夢の中でまであれこれ心配してくれる母に感謝しながら、量販品のマスクをかける。


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