浮つく気持ち-1
「ホント、美味しいですねー、このお店♪」
前に話した会社の近くの中華料理店にやって来た3人、修と梨紗とアンナ。梨紗は2人きりと言う状況を遠慮し、アンナは修と梨紗を多少なりとも警戒する気持ちを抱えてこの店にランチをしに来た。
とは言えアンナは梨紗には何の悪意も抱いてはいない。むしろ礼儀正しくて好きなタイプだ。それに梨紗は結婚している。そんな梨紗に修が惹かれていくとすれば自分の努力不足のせいだと思っている。何よりアンナがもっと梨紗の事を知りたいという気持ちから、快く3人でのランチを引き受けた。
「ホント美味しいですねー♪ねぇ高梨さん、どうして今まで連れて来てくれなかったんですかー!?」
「いや、だって、オマエ、顔が中華って感じじゃないから。」
「えー?何で顔で判断するんですかー!?」
「いやー、どっちかって言ったら肉をガブガブ食う印象があるからさー。」
「何ですかそれー。偏見!」
「アハハ!」
梨紗は他のそうに笑っていた。
「これ、家じゃなかなか作れないですよねー。見た目は真似出来るけど、この味の深さはそう簡単には出せないなー。どうやったらこの深みが出るんだろう…」
その言葉に、視点がやはり自分らとは違う家庭を持つ人なんだなと感じた。
「オマエ、料理できなそうだもんなー。」
「ひっど!!やろうと思えば、出来るかも知れないでしょー!」
「はっ?目玉焼きも作れないのに?」
「…ちっ」
「はー!?今、舌打ちしたかー!?」
「してないし。」
そんな2人の会話を微笑ましく見つめる梨紗。
「好きな人の為にって思えば、すぐに料理なんて出来るようになりますから大丈夫ですよ、金井さん♪」
「そうなんですか?」
「うん。だって私だってついこの間まで大学生だったんですよ?でも旦那がいて、子供もいる。だからいつの間にか何とか出来るようになっちゃったんですから。そんなもんです。」
「そうなんですね。何か長谷川さんにそう言われると、何か頑張れそうな気がして来ます♪」
「気がするだけだろ?♪」
「何よー!」
梨紗はやはり笑ってアンナを見ていた。
(梨紗は料理がうまいんだぞ?この中華料理が上手いと思ったらとことん研究してマスターしちゃうんだ。梨紗の料理でマズいのなんてなかった。クッキーから中華、魚まで全部美味いんだ。ああ、梨紗の手料理が懐かしい…)
人生をやり直した修にとって梨紗の味はまさにおふくろの味、そのものなのであった。