元妻-1
「初めまして、今日からお世話になる長谷川梨紗です。どうぞ宜しくお願いします。」
元妻の梨紗が入社して来たのはアンナが入社してきてから2週間後の事だった。第一印象は前の人生と変わらなかった。透明感溢れる控えめな美人。元妻に、不覚にもドキッとさせられた。それはそうだ、結婚をして一生を共にする覚悟を決めた女だ。トキメかないはずがなかった。
しかし気に掛かる事があった。
(長谷川梨紗って…)
梨紗の旧姓は永山だ。永山梨紗ではなく長谷川梨紗と名乗った事に首を傾げた。だがその理由は梨紗から告げられた。それは衝撃的な事実であった。
「私、今1歳の子供がいまして、送り迎えをしなければならなく、申し訳ありません、残業とか出来ないので、ご理解いただければと思います。」
そんな梨紗に事務員達はニコニコしていた。
「この会社、そこらはみんな協力的だから安心して♪」
「ありがとうございます!」
頭を下げる梨紗。1人呆然とするのは修であった。
(え?な、何?1歳の子供がいる!?な、何で?えっ?もう結婚してんの!?えっ?マジ!?)
あまりに衝撃的過ぎて頭が追いつかなかった。
(だって梨紗、大卒ですぐ入社したんだったよな!?え?て事はもう結婚してんの!?学生結婚!?嘘だろ?あの堅実な梨紗が学生結婚!?えーっ!?)
動揺が隠せない。確かに梨紗との未来を捨てて人生をやり直した手前、それにケチをつける立場にはない。だが自分のものであった梨紗が他人のものになっていると言う事実に、何か胸にモヤモヤするものを感じた。
(マジかよ…、梨紗、結婚してんのかよ…)
元の人生では新歓コンパで仲良くなり、その日のうちに結ばれた。それから4年間愛を育み、たっぷりとSEXをした後、晴れて結婚した。梨紗といると疲れない。自分が求める事を、言わなくてもしてくれる梨紗が非常に心地よかった。少し控えめ過ぎるとこもあったが、そんな梨紗を自分が守りたいと思ったし、一生一緒にいたいと思った。そこまで愛した女を目の前に、心が動かない訳がなかった。同時にそこまで愛した女を捨て、違う人生を選んだ自分に、果たしてそれで良かったのだろうかと言う疑問を抱いた。が、事実、もう梨紗は他人のものだ。心のどこかでまた梨紗とやり直せばいいやと考えていた甘さは打ち砕かれたのであった。