元妻-9
「そろそろ時間ですね。」
時計は12時50分を指していた。
「戻りますか。」
「はい。」
2人で一緒に歩くと周りから怪しく思われるかなとお互い思ったが、梨紗は、理由は分からないが修と歩くとどこかしっくりくる感覚を覚え、少し距離をとりながら並んで歩く。
「隣の中華屋、美味いんですよ?」
「そうなんですか?」
「今度行きましょうか、お昼」
「はい、金井さんも一緒に♪」
「…ですね!」
2人きりは色々抵抗があるのだろう。修は梨紗の心情を理解した。
事務所に戻り仕事を再会する2人。
(そう言えば一回だけ梨紗と事務所の中でヤッたよなぁ。梨紗、恥ずかしがっちゃって可愛かったよな。)
その時は梨紗の事務服に異常に燃えた記憶がある。出会い、恋愛、結婚…、全てが梨紗にとっては覚えていないのではなく、知らない事なのだ。修だけが記憶する梨紗との日々。思い出すと切なくなる。
15時にアンナが帰って来た。
「ただいま戻りましたー!」
元気に帰って来た。事務所の空気が一気に明るくなる。
「おー、金井、どうだった?1人歩きは。」
部長が聞いてきた。
「うーん、快適でした♪小煩い上司がいなかったんでー♪」
舌を出して悪戯っぽく言った。
「じゃあ明日から1人でいけばー?」
少しイラッとしてアンナに言った。
「アハっ、嘘ですよー。もぅ1人で不安でしたぁ、高梨さぁん。やっぱり一緒に行って下さいぃ♪」
手を前で合わせて甘えてくる。
「し、しょうがねぇなぁ…アハハ」
鼻の下を伸ばして修は笑った。
その様子を微笑ましく見ていた梨紗。しかし何か自分の胸に違和感を感じた。
(な、何…?この感覚…。モヤモヤするような…。えっ…?えっ…?これ…まさか嫉妬…?)
何故自分が嫉妬しているのか分からなかった。間違いなくアンナに嫉妬している自分に気づく。だが別にアンナが憎い訳ではない。だが修が鼻の下を伸ばした顔を見ると胸がモヤモヤした。
(ちょっと待って…、私、高梨さんを…!?いや、そんな事ない。さっき初めて話したばかりだもん。)
慎重な梨紗はまず一目惚れはしない。良くその人がどう言う人間なのかを知ってからではないと、今まで好きになった事はなかった。梨紗はきっと気のせいだろう、そう思う事に決めた。
だが梨紗は、元の修の人生で、一目惚れで修と恋に落ちていたのであった。